SIGMA 85mm F1.4 DG | Art (SONY-E)
「写真はレンズで決まる」そのレンズ群にドイツの光学メーカー「Carl Zeiss」の製品をラインナップした YASHICA / CONTAX が過去に広告で謳った言葉です。また「なぜならレンズがとても良いから」という文句でその製品を人々に広めたのは、同じくドイツのカメラメーカー「フォクトレンダー」(現在は日本の「コシナ」がブランド名として使用)でした。カメラ内部の内面反射処理や、シャッター機構の作動精度などの影響も無視はできませんが、銀塩写真においてレンズは結果として残される映像の仕上がりを左右するほぼ唯一無二の存在でありましたから、こういったキャッチコピーが利用されたのも頷ける話です。現在のデジタル写真においては、撮像センサーの特性や映像エンジンの性能、仕上がり設定やレンズ補正といったアフターエフェクトの有無等、映像に影響を与える要素が多岐にわたるため、レンズ単体の性能だけで映像の優劣を語る事にあまり意味が無くなってしまったと言えるのかもしれません。
と、自らのブログの存在意義を揺るがす様な危険な書き出しになってしまった本項ですが、皆様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申しあげます。ペコリ。
とは言え、被写体が持つ光の情報をより正確にセンサーへ届けるというレンズ本来の役割に関しては、センサーの進化が著しい昨今その性能にフイルム時代より遥かに高い要求が出されている事は明らか。結果、高性能に設計されたレンズは高度な収差補正を施されたことでその個性を薄められ、やや画一的な進化の道を進んでいるような傾向が強まっているとも言われています。まだまだ発展途上で、癖や隙の大きかった銀塩写真時代のレンズが改めて見直され、その個性が「オールドレンズブーム」のような形でもてはやされているのは、ある種デジタル時代へのアンチテーゼと考えられなくもありません。近年急速に普及している「AI」(Automatic Maximum Aperture Indexing ・ウソです。ウソです。大事なので2回言います)も、時が経てば間違いや無駄もあったけど「人間の思考」の方が良かったなぁ~。なんて思い返される日が来るのではないかと、結構真剣に思ったりもします。
良い機会ですので、レンズについての「性能」とは何かを少し考えてみたいと思います。先ずは撮影に際して「焦点距離」「明るさ( F値 )」「最短撮影距離」「最大撮影倍率」などは必ず把握しておかなければならない「性能」でしょう。記録という観点から写真を考えれば、どれだけ被写体の情報を正確にトレースするかの判断材料となる「解像度」や「MTF 値」「残存収差値」は重要な指標となります。表現的側面から見れば、感覚や好みが判断基準を占めるため数量的に表す事はできませんが、非合焦部の描写特性を表す「ボケ味」も重要なレンズ性能の一つと言えるでしょう。(ちなみに筆者は「塩味」を「しおあじ」と読む派なので、「ボケ味」は「ぼけあじ」と読む派でもあり、昨今にわかに耳にするようになった「ボケ感」には鳥肌が立つ派です。(苦笑))また、加えて車や時計などに比べれば重要度は低いとは思いますが、「デザイン」や「操作感」と言った要素も一つの「性能」と考えられる事もあるでしょうし、コスパといった言葉が示すように「価格」も、ある種の「性能」と考えられる場面が想像できます。
そして、「全長」「口径」「重量」といった、大きさ(ちいささ)・重さ(軽さ)に関わる数値もまた重要な「性能」として考えられる訳ですが、レンズは実際に手に持って使用される物でありますから、他の性能が同等であるならば、使用・操作に差し障りがあるような極端な場合を除き「小さく」「軽い」物の方がが良しとされるのが一般的です。改良モデルが発売される際、先代比で減った堆積や重量を訴求ポイントとして宣伝したり、設計の自由度が増す事でレンズの小型化・軽量化を実現出来るのがミラーレス化のメリットの一つだと、至る所で耳にすることからもそれが証明されています。
それでは実際に SIGMA によって至高の描写性能を与えられた Art シリーズ、その 85mm F1.4 においてミラーレス化の前後を比較してみましょう。本項で扱う 85mm F1.4 DG HSM | Art の SONY-E マウント対応レンズは 2018年にお目見えします。2016年に一眼レフ用の交換レンズとして登場した製品の基本設計を引き継ぐので、同一マウントでミラーレス専用設計か否かを比較できる恰好の素材となります。その堂々たるいでたち、全長152.2mm:フィルター径86:重量1210gは、空こそ飛びませんが唸る巨体で登場時相当な話題となったのですが、参考までにコン・バトラーVの身長は 57m:体重550t、もとい、過去デジタル一眼レフ用としてカメラメーカーが販売していたレンズ(全長:フィルター径:重量)を羅列すると、
Canon EF85mm F1.4L (105.4mm : 77 : 950g)
SONY Planar 85mm F1.4 ZA (75mm : 72:640g)
Nikon AF-S Nikkor 85mm F1.4G (84mm : 77 : 595g )
と、シグマ製品のその異常なまでの大きさが浮き彫りになります。
さらに、フイルム時代にポートレートレンズの代名詞的存在であったマニュアルフォーカスレンズ
CONTAX Planar 85mm F1.4 MM (64mm : 67 : 595g )
と比べるならば、SIGMA が頭一つどころか、二馬身ほども突き抜けていることに只々唖然とするばかり。隣に並べれば同じ焦点距離・明るさのレンズなのかどうか、業界に身を置く筆者からしても疑いを持ってしまうほどで、往年の「小錦 VS 舞の海」を思い出すばかりです(古)。
そして、満を持してミラーレス専用設計となった後継 85mm F1.4 DG DN | Art が2020年にリリースされる事となりますが、全長 96.1mm(マイナス 56.1mm) : フィルター径 77 (2サイズダウン) : 重量 625g (マイナス 585g )と、ライ〇ップの CM に出演できるかと思えるようなスーパーダイエットを成し遂げます。他社製一眼レフ用レンズとの比較で、最小・最軽量とは言いきれませんが、描写性能向上の為にあれほどの巨大化をも辞さなかった Art シリーズにおいても、ミラーレス化の恩恵は額面通りに受け取れる事を分かり易く示したのです。
さて、後継の登場と、販売されるレンズ交換式デジタルカメラがほぼミラーレス一色となった事で、本レンズは製造していた全てのマウントで販売を終了する事になりますが、いざ自由に手に入れる事が出来なくなると、改めてその存在が気になるのが人間の業とでも言いましょうか・・・・・。カメラに取り付けてフードを展開すると、中型クラスのカメラバックでは収まりきらない程の躯体、ボディーを合わせると 2Kg に迫る重量を半日も携行すれば、「小さい事・軽い事は正義」と言わんばかりにマイクロフォーサーズ機を愛用する筆者などには、ほぼ苦行。重量や大きさに関わる以外のあらゆる性能を、見事に後継機が引き継ぐ中で、あえて本レンズを所有したいというこの欲求の源にはなにやらマニアックな香りが。写真を単なる映像ではなく作品と考えるなら、それを決めるのはレンズではなく何なのでしょうか?そもそも、その生成映像にレンズはおろか、撮影者、被写体すらも必要としない「AI様」が何と返答するのか、機会があったら是非とも尋ねてみたいものです。
前後の美しい玉ボケ、高い解像度の合焦部、逆光をものともしないヌケの良い画像。合成か、はたまた生成かと疑いをかけられても仕方のない「絵に描いた様な」映像とでも言いましょうか。開放からこれですから、とんでもないレンズであることはビシビシと伝わります。
少し離れた位置から中央の樹皮にフォーカスを。焦点距離85mm程度であっても解放 F1.4 の被写界深度は思った以上に浅く、拡大すると合焦している部分は本当に僅かなのに驚きます。しかしながら、全体が大げさにボケた印象を受けないのは、合焦部から美しく連なる非合焦部の描写が優秀な証だと感じています。手前から奥まで映像の密度の様なものを感じます。
近接側の描写も、乱れらしい乱れを微塵も感じさせません。事務用椅子をストックした什器を開放で撮影しましたが、こんなに端正な描写を見せるとは素直に驚きです。ミラーレス専用設計のDNタイプの方はさらにコントラストが高く、スッキリとしたボケ像を形成していたような記憶はありますが、僅かに滲みを感じられるこちらの描写も捨てがたいモノがあります。
絞った時に映像の説得力やリアリティーが暴力的に増すのは、他の「 Art 」同様。壁面の落書きやボール痕など、そこに残された情報を何一つ漏らさない勢いでコピーします。扉の奥に存在する電気メーターと思われる部品が刻む数値までも完璧に視認できるほど強烈な解像度を見せつけます。
大学生ともなると、誰からともなく煙草に手を出すのは昭和生まれ男子の記憶あるあるでしょうか。卒業後スタジオアシスタントを辞めるまでは筆者も喫煙派でした。喫煙所なるものが普及したのは自分が煙草を止めた後の話なので、その風景はガラス越しにしか撮影した事がないんですよね。
かわいらしく並んだ2本のスコップを見つけスナップ。ちょうど背景に黄色の建材が写り込んだため信号機の様にカラフルな一枚となりました。人物のバストアップを撮るような距離感ですから、このレンズの背景描写がそれに好適なのは一目瞭然ですね。135mmに比べれば背景の情報も伝わりやすく、その場の雰囲気を残すのが85mm。上手く使い分けられたら言う事無しです。
近接・開放絞りといった条件でも葉脈を描き切るほどの鋭さを持った合焦面。半面、大きくボケた背景はとても柔らかでトーンに満ちた優しい描写。F1.4クラスともなれば、中心解像度を保つため、その他の部分に多少のクセや欠点が出ても仕方ないとあきらめたのは、もはや過去の話なのですね。
ハイライト基準で露出を決めると合焦部分はシャドーへと沈みました。夕刻とは言え初夏の強い日差しによる高コントラスト下でもこれだけ豊かな諧調が得られ、デフォルト設定のままで「眼福」とも言える美しいトーンが再現されます。敷き詰められたウッドチップが徐々にボケて行く様子や、シャドーに沈みつつも手触りを感じられるようなウッドチェアーの描写が、少し湿って青臭いその場の空気の匂いまで思い出させてくれます。



































































































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