For Nikon Z with Mount Adapter Feed

ELICAR V-HQ MACRO MC 55mm F2.8 (Nikon-F)

P3070088

 

 

 現職場に勤めて足掛け30年ほどになるでしょうか。おそらくこの業界に携わっていなければ、数量的・内容的に触れる事はなかったであろうカメラ・レンズ達が日々目の前を通り過ぎて行きます。一台で数百万円という価格で取引されるようなレアアイテムを取り扱ったり、コレクターの終活に携わりトラック満載のカメラや撮影機材を引き取るといった経験をしたりと、なかなかに想い出が尽きないと、時折感慨にふけったりもします。直接見たり、手に取る事は無いにせよ、お客様や業界の様々な方との交流の中で知識として知りえた機材なども加えれば、一般の方々の想像を遥かに超える数のカメラ・レンズに関して何かしらの知見を持っている事にはなるのでしょう。まあ、昨今話題のAIに頼めばあっという間に収集・整理が出来てしまう類いの情報ですから、さしたる自慢にもならないのですが、それでも個人的には自分の半生以上をかけて集めた宝物である事に変わりはないのです。

 さてそんな筆者ではありますが、今でも時折「何これ?」という機材に遭遇しては、改めてカメラの歴史の長さや重さに驚く事もあるのですが、本項で扱う「ELICAR」もそんな一本でした。妖艶な女性を(勝手に)イメージするような特徴的な名称の本レンズは、調べによると過去にタパック・インターナショナルが設計・企画し海外へ輸出販売された商品の一つで、同一光学系で「Vivitar」「Panagor」のブランドでも展開がされていたようです。これらの名称は、廉価品のズームレンズなどで過去に何度かお目にかかった事はあったのですが、「ELICAR」との邂逅は本レンズが初めて。恐らく当時は国内での流通は殆どなかったと思われますが、現在はeBay等の普及で中古カメラ・レンズの個人輸入に関するハードルが大きく下がった事や、オールドレンズへの関心が高まった事などが重なって、国内のオークション・フリマサイトでもチラホラと目にする機会が増えてきたようです。本レンズよりも先に「ELICAR」では 90mm F2.5のマクロレンズが注目されたようですが、こちらは、そのスペックからMF時代の「タムQ」との違いも気になる所ではあります。

 ところで、マクロ(接写)レンズは、その用途から「性能」が重視される事が多く、サードパーティー製レンズには分が悪い印象が強くあります。薄利多売が常套であるため「性能」を担保するためのコストをかけにくいのが、ある種の宿命だったとも言えるからです。ですから、当時メーカ純正品がひしめいていた「標準マクロ」の市場へ投入された「ELICAR」には、何か特別な自信があったのではないかと勘ぐってしまうのです。初見でその珍しさに目を引かれただけの「ELICAR」、考えれば考えるほど、別に隠された魅力が眠っているに違い無いと思い始めたのです。

 改めて依頼品を見てみよう。(CV:銀河万丈さん)恐らくそれこそが最大の特徴と言えるのは「レンズ単体での等倍撮影」が可能な事です。AF化を果たす以前の 50mm クラスのマクロレンズは、メーカー純正品においては大多数1/2倍が最大の撮影倍率であり、等倍撮影の為には、専用に用意された中間リングの装着が不可欠でした。つまり無限遠から最短撮影距離までシームレスな撮影ができない事が、標準マクロの「当り前」だったのです。単体での等倍撮影が可能だった唯一の存在と言っても良い YASHICA/CONTAX マウント用の Zeiss製 Macro-Planar 60mm 2.8 AE の定価が128,000円であった事を考えれば、ELICAR 55mm の特殊性は際立つでしょう。鏡筒への細かな距離・倍率・被写界深度の指標は丁寧な彫り込みによるもので、絞り設定にも1/2絞毎のクリックが設けられているという徹底ぶり。自重落下を避ける目的で重めに調整されたヘリコイドは、無限遠から最短までの移動に約2回転を要するという本格派で、近距離撮影時の厳密なピント合わせと保持を可能としています。エレメントの直径からすればやや大柄となる 62mm のフィルター枠は、恐らくはマクロリングライト等のアタッチメントを前述の 90mm マクロと共通化するための配慮に違いないでしょう。入手した Nikon F マウント用の露出計連動用のツメ(カニ爪)がビス1本で止められていというコストダウンの跡も見て取れますが、総じて当時のサードパーティー製とは思えない質実剛健なビルトクオリティーを見せてくれます。

 勿論、設計年代の古さもあって、微細なフリンジや収差が原因と思われる像の滲みなどを感じる場面はありますが、むしろそれらが描写の美しさを増幅する場面にも多々遭遇します。画面全域における解像度の高さ、歪曲収差や周辺減光の少なさなどは一級品のマクロレンズと評するに十分に値し、基本性能の高さは名だたる純正マクロレンズに勝るとも劣らないでしょう。僅か半日の試用でしたが、その描写には関心を通り超え感動する場面も多く、特に近接撮影時におけるボケの美しさは誇張ではなく特筆に値。その存在の特殊性から、今後状態の優れた個体に巡り合う可能性は高くは無いでしょう。手元に残る極上の個体、勤め先の倉庫へ戻るのではなく、しばし我家の防湿庫でくつろいでもらおうと決意するのです。

 

 

Dsc_3175

正直聞き馴染みのないメーカーの製品だったので、当初はその性能を侮って当Blogで記事にするつもりはなかったのですが、試写一枚目から目を疑いました。拡大すれば非合焦部のハイライトエッジに若干の色付きを認めますが、画面周辺まで開放からとても分解能の高さを感じる「マクロレンズ」然とした写り。周辺減光も極周辺に僅か存在する程度。ボケのエッジは少し滲みを見せる様子が感じ取れるので、柔らかなボケ像が期待できます。

 

Dsc_3536

想像した通り、ボケは前後共にエッジ感の少ないとても柔らかい様子です。解像度を優先して設計するマクロレンズにおいては、特に後ろ側のボケが硬くなるイメージがありますので、これは相当に意外な結果です。同社製品では兄弟レンズである90mmのマクロレンズが、欧州中心になかなかの評判らしいのですが、50mmのポテンシャルも相当に高いのではないかと思う次第。

 

Dsc_3331

さらにボケの様子を確認するために丁度良い被写体を発見。間違いなくこのボケ像は「好き」なヤツです。まさかマクロレンズでこれを得られるとは驚き。たとえEVFであっても、ボケ像の中から合焦部が浮かび上がってくるのを確認するMFでのピント合わせには一種の快感を覚えます。ヘリコイドの回転角はかなり大きく操作に時間はかかりますが、開放での厳密なピント位置の調整には不可欠な機構でしょう。作り込みに手ヌキが無いのも好印象。

 

Dsc_3281

合焦部から外れると、若干ハイライト中心に滲みが現れるのが柔らかいボケ像の正体なのでしょう。55mm F2.8 のマクロレンズと言えば真っ先に Micro Nikkor を想像するのですが、比較して検証してみる必要がありそうですね。あちらは定番レンズで在庫も潤沢ですから、陳列棚からちょいと拝借してみましょう。

 

Dsc_3295

絞り込んだ時にどんなボケ味になるのか F8 で検証。意地の悪い被写体ですが、悪目立ちしやすい枝葉がとても素直に描写されておりこれにも驚き。レンズ型式の MC は恐らくマルチコーティングの意でしょう。さすがにコーティングの仕上がりには世代を感じますが、逆光性能も特に問題は無いようで安心しました。

 

Dsc_3487

全域が被写界深度に収まる被写体・絞りを選ぶと、引き締まったマクロレンズらしい映像が手に入ります。線の細い緻密な描写で、細かい部分まで非常に高精細な映像を手に入れられます。開けて良し、絞って良しの優等生。純正メーカー品がひしめくカテゴリーで光る個性を持った一本に違いありません。

 

Dsc_3510

開放から周辺減光をあまり感じないレンズですが、白い壁面を撮影するとその優秀さは一目瞭然。F4.5 あたりの絞りですが、収差による他の影響も影を潜めます。半絞り毎にクリックが用意されているのにも強い拘りが感じられますし、複写等の学術的な使用目的でも実力を発揮できると確信できます。

 

Dsc_3197

高い解像度を実感できる一方で、絞りを開け気味で使えばシャープネスと適度な柔らかさを併せ持た持った描写を見せます。春の日差しを浴びたウッドチェアや壁材の柔らかな手触りが伝わってくるような印象を受けます。覗き穴?の先、遠景のボケには若干エッジが見られますが、この程度は無視できる範囲。方眼紙を撮影した訳ではないですが、問題になりそうな歪曲収差は感じられませんね。

 

Dsc_3288

F8の描写。開放から2~3段絞ったいわゆる「オイシイ」ところ。開放でも十分な解像度を持っていますが、さらに鋭さを増し最新デジタル対応レンズの様なパキっとした描写を見せます。金属部品や籐の座面の質感も申し分ありません。高周波成分となる芝生も周辺まできっちりと描写します。

 

Dsc_3480

公園にある水飲み場。見かける度についついカメラを向けてしまう被写体の一つです。小さい頃、指で穴を塞いで悪ガキ仲間と水を掛け合って遊んでいたのを思い出します。今だと、安全面・衛生面やらなんやらで問題視されてしまいますかね・・・・。こういった懐かしい思い出に写欲を掻き立てられるのは、やはり年齢のせいなのでしょうか?。

 


Dsc_3465

最短撮影距離での等倍撮影。収差が大きくなる為か若干ハロの影響もあって、通常距離での映像に比べややソフトに描写される印象。枯れた袋果のモノクロ写真が、レントゲンやCT画像のような不思議な画になりました。合焦部の解像感、柔らかな後ボケは維持されており、総じて優秀な画を造り上げてくれます。

 

 

MINOLTA AF APO TELE MACRO 200mm F4G

P3030033

 

 

 スマートフォンに搭載されたカメラ機能が著しい進化を遂げた現在では、あえてカメラを単独で購入しないという方も結構な割合で存在していると思いますし、そもそも単独機能のカメラが必要なのか、といった様な議論も度々発生します。勿論、スマートフォンには「薄さ」「重さ」「大きさ」等の物理的な縛りがありますから、全てのカメラを不要と考えてしまう事には、まだまだ議論の余地が相当に残されているのが現状と言えるのでしょう。もっとも、スマートフォンに搭載されるカメラの進歩は、レンズやセンサーの進化以上に、画像生成に関わるソフトウェア部分での変革に因る部分が多く、画面上での見栄えを良くする為の画像修正やボケの生成、被写体の変形や不要物の除去などを半ば自動で行う事が当たり前となった昨今、その映像を「写真」と呼ぶことへの議論もあって然りでしょう。各収差を始めとしたレンズの物理的欠点を補う、いわゆるデジタル補正の恩恵をいまさら否定するつもりもない私などは、ダブルスタンダードとも思われかねませんが、写真へのデジタル技術の関与については、自分なりのポリシーを常に確認、アップデートする必要があるとは感じています。(他人からすればどうでも良いことなんでしょうが・・・・・)ともあれスマートフォンの爆発的な普及によって、いわゆるコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)に関しては、多くのメーカーで販売終了や販売規模の縮小をせざるを得なかった事実は揺るがないのですから、あえてコストをかけてまで、単独の「カメラ」を手にして行う「撮影」という行為が可能な今は、それを存分に楽しんでいたいと只々思うのです。

 さて望遠撮影は、レンズの「長さ」という物理的な特性が現状では不可欠となりますから、スマートフォンに比較して単体としてのカメラ、とりわけレンズ交換式カメラのアドバンテージが光る場面です。一般的に望遠レンズは遠方の被写体をより大きく写す事を目的として利用されますが、反面、最短撮影距離は長く被写体への接近は難しくなってしまうのが通例です。最新のレンズでは随分と最短撮影距離も短くなってはいますが、それでも2~ 300mm 程度の望遠レンズでは 1.5mから 2m 程度、600mm や 800mm の超望遠レンズともなれば、4m から 5m 前後が一般的なスペックとなります。

 ですがそんな望遠レンズの中に、本来不得手な「接写」という目的を与えられた異端児、「望遠マクロ」レンズが存在します。「望遠マクロ」と言うと、焦点距離 90mm や 100mm の「中望遠マクロ」を思い起こす事が多いのですが、本項で取り上げるのはさらに長い焦点距離を持ったマクロレンズになります。現在ミラーレス一眼用の交換レンズ拡充を続けるカメラメーカー各社ですが、2026年現在該当スペックの現行品としては唯一 OMDS より発売される 90mm F3.5 MACRO(フルサイズ換算画角180mm)の一本のみ。撮影倍率1/2のハーフマクロまで加えて SONY FE 70-200mm F4 GⅡがやっと候補に挙がるだけという寂しい状況です。フイルム時代には 180mm や 200mm のマクロレンズがカメラメーカー・サードパーティーの多くからリリースされていた事を考えると、現在はあまり需要が見込まれないレンズになってしまったのかもしれません。しかしながら、ライフワーク的に植物の撮影をしている筆者からすれば、浅い被写界深度、長く取れるワーキングディスタンス、強めに現れる圧縮効果など、作画に生かせる特徴てんこ盛りの 200mm マクロは是非とも手に入れたい一本と感じています。フルサイズミラーレスの Nikon Z5Ⅱを入手した今となっては、Zマウントでの Micro-Nikkor 200mm 再臨を期待しているのです。(めっちゃ高くて買えない予感しかないですが)

 フイルムカメラ晩年にMINOLTA AF一眼レフ用にリリースされた本レンズは、20万円を超える定価とその特殊性も相まって販売本数は決して多くは無かったのか、結果現在中古市場で安価に取引される事が多いMINOLTA-Aマウントのレンズ中では、比較的高値で取引される珍品に。今後、近似スペックのレンズがSONY-FEマウントでリリースされれば話は変わるのでしょうが、光学系を含め状態の良い中古品を探すのは案外骨が折れるのが現状です。マウントアダプター併用前提ながら、幾分か入手性の良いAF Micro-Nikkor 200mm F4 (公言されてはいないでしょうが、公表データから察するに恐らく同一光学系)を狙ってみるのも面白いかもしれません。(と言うか、試写・比較する気満々)AF性能の向上した現在のフルサイズミラーレス専用の200mm マクロ、Art シリーズでいかがでしょう、SIGMAさん?

 

 

Dsc06153

200mmともなると、F4 の絞りでもご覧の様な大きなボケを造ります。グラーデ―ションと化した背景はまるでスタジオ撮影をしたかの様な雰囲気を醸し出します。恐れ多いですが花写真の大家、故・秋山庄太郎先生の作風を思い出してしまいました。フイルム時代から存在しているレンズですが、APO の名は伊達ではなくエッジへの色付きもほとんど感じないスッキリとした映像。開放から中心部の解像は文句の付け処は無く、丁寧なコントラストの出し方、線の細い優しい描写が持ち味の様です。

 

Dsc06335

平面的に被写体を切り取れば画面周辺まで破綻を見せず、遠近感の圧縮を伴った重厚なイメージを見せます。枯れた古木を抱え守るように新しい外皮が覆っています。声を出したり、自ら移動したりする事の無い植物ですが、こういった個体を目にする度、確かに「生物」なのだと教えられるような気がします。 

 

Dsc06123

細い枝が幾度も折れ曲がり高い密度で存在する「梅」は、背景の処理に手間取る事が多く、個人的には苦手とする被写体なのですが、200mm の浅い被写界深度と狭い画角を武器にすれば、ご覧の通り。薄日の差す曇天下、柔らかいトーンを上手く表現してくれました。元画像は拡大すれば雄しべに付いた花粉の粒まで解像する高性能。対する柔らかなボケとの協調も見事です。

 

Dsc06173

最短撮影距離は50cm と、まるで標準レンズの様な数値。レンズ先端からは約 25cm ですから、フードを取り付ければ被写体スレスレ。長いレンズを取り付けて被写体に肉薄する様は、あたかも変質者のソレですが、本来はワーキングディスタンスを稼いで、離れてた位置から昆虫などを撮影するのが持ち味なのでしょう。それにしても、高い解像感と柔らかなボケが同居する美しい映像にうっとりします。

 

Dsc06320

公園の水遊び場に取り付けられたスプリンクラー。前後のボケの様子を確認するのに好適な被写体となりました。均質で乱れも少なく、合焦部をとても良く引き出しています。開放から安定描写で、「絞り」が単純に明るさのコントロールをする為だけに存在していると言って良いでしょう。Aマウントレンズの為、AF・絞りの作動音はやや耳障りですが、コントラストのはっきりした被写体相手だと AF も非常に俊敏な動作をしてくれます。

 

Dsc06189

線の細い高精細な描写は遠距離の被写体を撮影しても健在です。和風造形が施されたランプシェードの細かな細工を鮮明に映し出し、且つ背景のボケ具合もとても好ましく感じます。一般望遠レンズとしてのポテンシャルも高く、遠景スナップもそつなくこなす頼もしい一本だと感じました。

 

Dsc06484

50mm や 100mm であれば、窮屈な姿勢で被写体に肉薄しなければならない状況ですが、ある程度離れた場所から被写体を狙えるので、最近体の硬くなってきた初老の筆者には、多少の重さを我慢してでも手に入れる価値は高いと思えてしまいました。開放絞りは F4 と控えめでシャッタースピード的に厳しい状況でしたが、内蔵手振れ補正が強力な武器となりました。
 

Dsc06208

地面に気になる被写体を見つけた際、通常のレンズではしゃがみ込む必要がありますが、機材を入れたカメラバックを背負った状況では、これがなかなか重労働。ところが200mmマクロでは、立ったままの姿勢で撮影ができ、地味に嬉しかったのと同時に自身の体力の衰えを感じて少し寂しくもなったりしました。この被写体の様に、美しく枯れて行けたら本望ですね。

 

 

SONY FE 35mm F1.4 GM (SEL35F14GM)

P2080009



 

 

レンズ構成(群-枚):8-12 > 10-14

フィルター口径:72mm > 67mm

絞り羽根枚数:9枚 > 11枚 

最短撮影距離:0.3m > 0.27m(AF時)

重量:630g > 524g

長さ:112mm > 96mm

 

 何の一覧かと申しますと本レンズ FE 35mm F1.4 GM が、先行発売されていた Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA と比べて変更になった主な諸元です。左側が Distagon > 右側が G master の物です。

加えて申し上げるならば、

希望小売価格(税別・2026年時点で併売):164,000円 > 216,000円

といった、価格差も存在しています。

 数値上から判断されるスペック向上分の価格差はもちろん、加えて描写性能向上が見られるかどうかがやはり気になる所。元々220,000円(税別)という価格で販売され、G Master の登場によって実質的には下位機種扱いとしての値下げが行われた Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA の心中を代弁して、とは言いませんが、なんとなくモヤモヤしている自分(@デジタル移行直前までCONTAXやHasselbladで、Zeiss製レンズにはさんざんお世話になった)がここに居るのです。「見せてもらおうか、SONY製 G Master レンズの性能とやらを」と、ツノと赤色が大好きな御仁がおっしゃったとか、おっしゃっていないとか・・・。

 さて、フルサイズにおける35mmという焦点距離のレンズは「広角レンズ」中では、その描写に顕著な癖が存在しない為に「準標準レンズ」のような表記もされたり、「標準レンズ」として考えている事を公表する写真家も存在しています。かく言う私も、モータドライブ付きの Nikon F3 に Ai Nikkorの35mm F2 を装着し通学の友としていた学生時代などは、視覚の延長としてこの画角を好んで、課題制作の多くをこなしていた事を記憶しています。

 単焦点として初めて購入した35mmは、上記のレンズよりもさらに一段明るい Ai Nikkor の35mm F1.4 。当時はポートレート作品のバリエーションを増やす目的で広角レンズの必要性を感じ、できるだけボケが大きくなるレンズを選びたかったのがその購入動機でした。高校生時代にお世話になっていた写真店主に「前玉に少しキズあるから、安くするよ」と見せられた中古の個体をお迎えをしたのですが、現在では「クセ玉の代表格」として語られる事も多い、そのとてもエモい描写(注釈:収差により強烈な個性を発揮する)が後に軽くトラウマとなったのも良い思い出です。目的であった解放絞りの映像は、中心部の解像度は十分ながらもフレア・ハロが競演する軟調ソフト描写で、加えて顕著な二線ボケが背景を乱雑化するじゃじゃ馬っぷりでしたので、乗り手として圧倒的に経験・技量不足であった若かりし筆者などは、幾度となく落馬させられたのです。先人の残した作例や貴重な経験談を簡単に入手する手段の無かったインターネット未発達時代の逸話として「明るい広角レンズには気を付けろ」という家訓とともに、後世まで語り継がれたのです。なんだこれ。

 Nikkor の面目の為に申し上げますが、35mm F1.4 のオリジナルは1971年発売の、押しも押されもしないオールドレンズ。一眼レフ用としては世界初・無二の存在でありました。レフレックスミラーの存在や、Nikon 伝統のフィルター径52mm縛りという足枷の中、コンピューター設計も未発達であり、非球面や低分散ガラスなどが贅沢に使用できない設計環境下で達成されたスペックであることを理解しておかなければなりません。後発となる Leica  SUMMILUX-R や YASHICA/CONTAX 用の Zeiss Distagon のフィルター径は67mm。オートフォーカスに世界で初対応した MINOLTA の非球面レンズ採用 35mm F1.4 でさえ55mm だったのですから、一眼レフ黎明期に設計されたフィルター径52mmの Nikkor 誕生は、さぞかし難産であった事が容易に想像できます。1絞りの明るさの価値が、現在よりも数段は重かったフイルム時代、本レンズにのみ許された撮影ステージは決して少なくはなかったはずであり、多くのマニュアルフォーカスレンズの製造が中止されていく中、本レンズはシリーズ末期までラインナップに残り続けていたという事実もここでしっかりと加えておこうと思うのです。

 さて、Nikkor の発売から40年以上が経ち、SIGMAの Art シリーズ第一弾として登場した35mm F1.4 DG Art(2013) は、これまで持っていた「レンズメーカー」・「35mm F1.4」への個人的イメージを根底から覆し、 歴史上 Art 以前と以降という明確な区切りを感じるほどに衝撃的な描写性能を持っていました。無論デジタル一眼のミラーレス化以降に発売された Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA(2015)、Art 自身のミラーレス対応レンズである 35mm F1.4 DG DN Art(2021) といった高性能レンズ達にも、少なからぬ影響を与えた事でしょう。当然、本レンズ(2021)へも然り。開放絞りから画面全域を満たす繊細な良像域とデジタル補正のアシストを受け丁寧に補正された歪曲・色収差。6000万画素を使い切るであろう高い解像度は、広角レンズである事を完全に忘れさせる極めて滑らかな前後のボケ像によって一層際立ちます。「ええぃ! SONY 製の G Master は化け物か!」と、かの御仁が(以下略)。この値千金ならぬ、差額52,000円以上の働きを心に刻みつつ、なんだか Nikkor と SIGMA Art の紹介記事になってやしないか?との反省と共に、新しい家訓と購入費用の必要性をひしひしと感じているのです。余談ながら、執筆中に訪れたCP+2026の会場では、35mm F1.4 DG DN Art の後継レンズがこっそり置かれていたのは気付かなかった事にしておくとしましょう。

 

 

Dsc06079

前日の夜中に降り始めた雪は早朝には止みましたが、出勤時間にはまだ所々積雪があり、歩道橋の上からは日常とは違う景色が広がり写欲をそそります。開放での描写ですが、自然なボケ、信号機上の雪の質感、重く湿った路面の描写、良い感じです。

 

Dsc06091_2

ボケの様子をもう少し観察したくて、路地から住宅の隙間を一枚。侵入を防ぐための柵を手前に大きく入れてみましたが、とても自然にボケているのには驚きです。広角レンズのF1.4描写が、これほどまでとは脱帽するしかありませんね。合焦部の地面部分は砂の粒子がしっかり感じられるほど解像されており、G Master の高い実力が感じられます。

 

Dsc_2611

昨年に続き、CP+の会場へ赴いて情報収集を。田舎に隠居する身ですから、しばらくぶりの都会のスケール感に圧倒されます。相手が大きい為なのか、近頃持て余し気味に感じる35mmの画角がとてもしっくりと来たのがちょっと新鮮でした。Nikon Z5Ⅱへ装着しての撮影でしたが、オリジナルでは若干残る樽型の収差も、Lighiroomのレンズプロファイルを適用するとご覧の通りスッキリと。絞り込めば遠景まで圧倒的な解像度で記録します。

 

Dsc06090

雑居ビルの隙間に取り残された電気メーターが時代の変遷を物語り、すでに居住者が居ない物件に繋がれた古いタイプのメーターに時間の重さが滲みます。周辺光量落ちを期待つつ、さらに露出をマイナスへシフト、開放であっても周辺まで高い解像力を維持してくれるので、安心して暗い被写体に挑めます。

 

Dsc_2930_2

モノクロームの映像に着色を施したかのような映像になりました。なかなか田舎では道路を真上から見下ろす機会は少ないので、こういった状況に出会うとほぼ無意識にカメラを向けてしまいますねぇ。赤い自動車でも通ってくれたら色彩的に面白くなったんですが、しばらく待っても一向に通らなかったので諦めました・・・。最近試用したどの35/1.4よりも軽い本レンズ。比較的軽量なZ5Ⅱに装着すると、ハンドリングも良く長時間ぶら下げていても苦にならないのはいいですね。

 

Dsc_2771

海なし県出身なので、波の音を聞いただけで無暗にテンションが上がってしまいます。そういえば大学生時代(校舎は内陸に存在)に瀬戸内出身の同級生が、時折海を見られない事の禁断症状を訴えては湘南方面に出かけていたのを思い出しました。現在都会に住んでいる娘は、時折山や星空が見えない事に対して禁断症状があるみたいです。ノスタルジーってのは自身に刷り込まれた源風景への禁断症状が引き金になるのかもしれないですね。それにしても開放で、この色ノリは反則ではないでしょうか?

 

Dsc_2915

ホテルの外壁(ミラーガラス?)に映った向かいのビルや空模様が、なんとも不思議な都市景観を作り上げていました。雲の流れが速く、写り込む風景が刻々と変化をして行きますので、連写を使って後から映像をチョイス。絞り込めばさらに解像度が上がり、外壁の小さなタイル一枚一枚が克明に描写されます。本当に化け物の様な性能を発揮してくれます。

 

Dsc_3018

CP+会場、パシフィコ横浜の二階入り口前。まだ閉場まで時間がありましたが、チョットした偶然なのか通行人が全く居ない瞬間に出会いました。長時間露光やGoogleピクセル加工したかの如く、蒸発したかのように人影がありません。パンフォーカスを得る為、F11まで絞り込んでの撮影。Z5Ⅱは極端な高画素機ではありませんが、手前から奥まで気持ちの良い画質でレンズの高性能を受け止めてくれました。

 

 

 

SONY Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA (SEL35F14Z)

Pa070063

 

 

 Aマウント時代のSONY製デジタル一眼レフには、24mm F2 ・ 85mm F1.4 ・135mm F1.8 と3本のZeiss製大口径単焦点レンズが用意されていました。フルサイズミラーレスα7の登場によりモデルチェンジも当然予想された訳ですが、ボディーの登場に合わせて登場したZeiss製の単焦点レンズは FE 55 mm F1.8および FE 35mm F2.8 でした。新システムへの移行初期ですから、市場で高い訴求力を発揮する高性能・高倍率ズームレンズや廉価製品に率先して開発リソースを割かねばならならないのも道理。本レンズ、Distagon T* FE 35mm F1.4 ZAのような趣味性の高い大口径単焦点レンズが登場するのには、指折り3年の月日を要しました。翌年に Planar T* FE 50mm F1.4 ZA も発売となるのですが、意外なことに頭書の 24・85・135 の3レンズはZeiss製レンズとしてではなく、24mm F1.4GM ・ 85mm F1.4GM ・ 135mm F1.8GM と 純正 G Masterとして刷新されました。メーカー内でのブランディングや販売戦略に関しては、単なる一消費者に過ぎない辺境中古カメラ店員にその真意は計りかねますが、Aマウント時代に存在した35mm と 50mmの F1.4レンズは共にフイルム時代に設計の端を発する、言わばセミオールドレンズでしたから、完全なる新設計であることを分かり易く伝える為「Zeiss」という看板の影響力に頼ったという側面があったのかもしれません。

 ところで、Zeiss の35mm F1.4と言えば、フイルム時代にヤシカ・コンタックスマウント用に供給された、Distagon 35mm F1.4 を思い起こす方も相当数おられるかと思います。かく言う私も、大学卒業後に現職場とブライダルの出張撮影で二足のワラジを履く中、メイン機材の、それもほぼ標準レンズとして愛用していたのがそのレンズでありました。高い逆光耐性、解放からの実用的な解像度、若干の癖を感じる事はあっても大きく破綻をしないボケ像が得られる万能優等性であり、なによりデジタル機材の様に安易な感度変更を行えないフイルム撮影ではF1.4 の明るさは何物にも代えがたく、手振れ補正の恩恵も受けられない時代に幾度も助けられた事を思い出します。ですからデジタル時代となって、Distagon 35 1.4 T* の刻印をAF化という強力なオマケを付けて再び手にできるというこの事実は、体内のあらゆる液体の栓が緩くなり始めたお年頃の筆者にとっては、いったい幾晩枕を濡らしたらよいのやら・・・と思うほどの吉報だったのです。

 加えてDistagon T* FE 35mm F1.4 ZA に関しては、後にとても数奇な運命が待っているのですが、それは同一スペックの純正レンズ FE 35mm F1.4 GMの登場によってもたらされます。ボディー性能が爆発的スピードで進歩する昨今は、レンズ側においてもボディー側の各種演算スピードへの対応や、AF、絞り作動といった機械動作の高速化、動画撮影への対応強化などが求められる事態にもなっているのですが、シリーズの比較的初期段階で投入されたこのDistagonも例外ではなかったのでしょう。発売開始から6年後の2021年にバトンを渡した後進は、約100gの軽量化、最短撮影距離3cmの短縮、フィルター径含めたレンズ全体の小型化を果たしただけでなく、公表MTFからも明らかなる高画質化が窺える仕様を達成していました。さらにこの新レンズは当初198,530円(税別)という希望小売価格を設定(2026年現在は216,000円)しており、これはDistagonの価格(220,000円)を下回る、まさに下克上を絵に描いたような登場でした。

 当然、誰もがDistagonに引退の二文字を意識した訳ですが、ここでSONYによるDistagonの価格改定(すなわち販売継続)が発表され、我々は2度驚かされることになりました。Distagonの希望小売価格は140,080円(2026年現在は164,000円)へと、なんと8万円近くも値下げが行われたのです。意味の乏しい比較ではありますが、ヤシカ・コンタックス時代のDistagonの販売終了時の価格168,000円より、さらに安価に最新のDistagonが手に入るようになったのです。それとなく大人の事情も見え隠れしますが、SONY曰くの「ソニーEマウントレンズにおける広角単焦点域のラインアップ拡充に伴う価格ポジションの見直し」を額面通りに受け取るとすれば、最高画質を求める方は「G Master」を、「Zeiss」が安価に入手できる事に意味を見いだせる方はDistagonを、といった落し処なのでしょう。いずれにしても35mm F1.4 に選択肢が増えた事を素直に喜んでおくのが、きっと幸せなのかもしれません。

 

 

Dsc05627

準広角レンズといってもやはり解放 F1.4の被写界深度の浅さはあなどれませんね。なんとなく合焦範囲が広がっていると思いきや、キリッと解像しているのは極一部分のみです。かなり暗い日陰での撮影ですが、解放からしっかりとコントラストが立ち上がる描写です。僅かの周辺減光や四隅でやや像の流れが見られますが、大きな欠点とは感じないレベルでしょうか。
 

Dsc05526

フィルム時代のDistagonは、フローティング機構の影響なのか近接時に二線ボケがやや目立ったと記憶しています。ミラーレス化への対応を果たした本レンズは、いじわるな被写体であっても破綻を感じさせないボケ味へと進化。これなら近接でも安心して絞りを開けられそうですね。
 

Dsc05581

縮小画像ではお伝えきれませんが、木漏れ日の当ったハイライト部の煌めきが非常に美しい一枚。僅か残った収差の影響か、輝度の高い部分のみにうっすらと発生するハロがその場の空気感を増幅して捉えます。

 

Dsc_0111

曇天の夕刻、寺の片隅にあった清掃用具置き場。年季の入った道具達が見事なバランスで配置されているのに感心して一枚。実際はかなり暗い状況でしたがボディー内手振れ補正の力を借りて事なきを得ました。Z5Ⅱのフォールディングバランスが良い事もありますが、作動ブレを起こしにくいミラーレス構造+電子シャッターの恩恵も計り知れません。

 

Dsc_0087

Lightroomのレンズプロファイルを利用した歪曲補正を行っていますので、画面上部に感じる糸巻き収差状の湾曲は、おそらく被写体自身の経年による変形かと。フルサイズでの35mm画角は、テーブルフォトなどにも好適。意地の悪い被写体でなければ、ご覧の通り近接能時にもボケ味含めて極めて優秀な活躍。お世辞にもスマートな機材では無いので、飲食店ではバックにしまっておいた方が良とは思いますが。

 

Dsc_0072

開放時のボケ像には多少グルグルとした印象もありまが、細かな被写体をボカしても極端に乱れていないのは、35mmという焦点距離で考えれば優秀と言って良いでしょう。鉄道好きは、こういった写真をネタに5分でも10分でも話せたりしちゃうのが不思議。私は違いますよ。

 

Dsc_0115

上の清掃用具を撮影した同じ場所に干してあったタオル。とても几帳面な方が管理されているのだなぁと感心してしまいました。まさか見知らぬ他人のネット上で紹介されているとは想像もしていないと思いますが、だからこそ人目に付かない部分でも手を抜かないその姿勢を見習いたいと感じてしまいました。まだ湿気の残った印象の繊維の質感、いいですね。

 

Dsc05548

少し絞るだけで、画面全域が隙を感じない良像域で満たされます。雨滴が作る波紋が、好みのバランスで写り込むタイミングを狙っての撮影です。同じ場所で結構な時間を費やしていましたが、価格高騰が続くフイルムでは真似のできない撮影になってしまいました。そういえば、なにやらメモリーカードも高騰しはじめてるとか。(2025~2026年、一部半導体の高騰が影響)

 

Dsc05646

レンズの性能かフルサイズセンサーの恩恵か、豊富なシャドーの諧調あっての被写体と言えるでしょう。植物から放たれた湿気や酸素まで写り込み、その場の匂いも思い出せるような映像となりました。被写体はしばしば訪れるガーデンの雑木林。G Master を借用する機会があったら、ぜひとも同じ場所で試してみたいと思っています。

 

 

SONY FE 85mm F1.4 GM (SEL85F14GM)

P1310023



 

 

 

 85mmという焦点距離を持つ俗にポートレートレンズとも呼ばれるレンズは、自身にとって想い出に事欠かないレンズの一つです。実際は途中から路線?の変更がありましたが、将来「写真」に関係した仕事で飯を食っていきたいと本気で考え始めたきっかけが人物撮影だった事もその主な理由なのだろうと思っています。

 写真部に在籍し本格的に写真撮影を始めた高校時代はアイドル写真全盛の頃。部の先輩が地元百貨店の屋上イベントで撮影したアイドル写真を半切サイズに伸ばし、部室入口に飾ったりしていたのも懐かしい思い出。師事していた写真店主の勧めもあって、当時県内で盛んに開催されていたモデル撮影会に顔を出したり、小・中学校時代の同級生やその妹にまでモデルを依頼(男子校出身なので止むを得なかったのですが、今の時代で考えると軽く通報案件ですよねぇ・・・)するうち、徐々にポートレート撮影の世界にのめり込んでいきました。それ以前は、学校行事でのスナップや風景、部活動の記録などが写真部員としての主要被写体でしたから、使用する機材は広角系の標準ズームや望遠ズーム、それに400mm程度の超望遠といったものでしたが、主要被写体の変化に伴いポートレート撮影に適したレンズへと興味が移っていったのは当然の流れでした。

 当時「も」決して自由になるお金が多かったわけではありませんので、当初は自前の Ai Nikkor 50mm F1.4 に、マニュアルフォーカスレンズをAF化するTC-16ASという純正テレコンを装着し、80mm 約F2.3 のポートレートレンズ(仮)で他校の文化祭へ出向いてナンパモデルスカウトなどもしていましたが、やはり F2 よりも明るいレンズの大きなボケや、フィルター径52mmよりも大きな前玉を持ったレンズへの憧れは捨てきれず、幾ばくかの機材を下取りに出してAF Nikkor 85mm F1.8 の購入へと至りました。この人生初となる85mmの単焦点レンズは、解放から目の覚めるような合焦部のキレの良さ、焦点距離と解放 F値の相乗効果による大きなボケによって、それまでズームレンズやテレコン併用によって得られた物とは次元の違う写真の世界を見せてくれました。引き伸ばし時のピント確認をする際、ルーペ像に浮かんだ被写体の瞳の中に撮影している自身の姿がはっきりと写り込んでいたのを目撃したのがあまりに衝撃的で、後の私を単焦点レンズ偏愛者へと改宗させる大きな原動力?の一つとなりました。

 このNikkorは高校時代と大学の4年間、かけがえのない知人・友人の肖像を記録や、課題作成の相棒として苦楽を共にしたりと、自分の写真人生においてとても重要な時間傍らに存在していました。大学卒業以降このレンズは徐々に出番を減らし、システム変更とともに私の手元から離れることになるのですが、就職・結婚・育児・引っ越しと日々目まぐるしく変化する生活環境の中で、被写体として真剣に人物に向き合える時間を随分と減らしてしまった事も、少なからず影響していたのだろうと感じています。

 想い出はさておき、デジタルミラーレスの時代、ちょっとした偶然の重なりから手元にやってきたのが本レンズ FE 85mm F1.4 GM (Ⅰ型)となります。マウント径を大幅に拡大したCanonやNikonには、さらに明るい F 1.2 のレンズも存在していますが、小型なAPS-Cフォーマットで出発しながらもマウントを変更せずにフルサイズ化を果たしたSONY FEマウントでは、いたずらに F 1.2 へのチャレンジをするのではなく、最高の F 1.4 を造る事の方が重要と言わんばかりに、市場には最新高性能ボディや動画撮影への対応を果たすべく、AFの高速化や軽量化、各収差の補正強化を与えられたⅡ型がすでに投入されています。結果MINOLTA時代から数えれば、初代 AF 85mm F1.4・AF 85mm F1.4G・AF 85mm F1.4G(D)・AF 85 mm F1.4G(D)Limited、SONY時代となって Planar 85mm F1.4 ZA、ミラーレス化以降の FE 85mm F1.4 GM・同 GMⅡと、実に7種もの85mm F1.4 が存在するという奇妙な歴史が浮き彫りになるのですが、執着とも受け取れかねない 85mm F1.4 への愛が脈々と引き継がれている印象さえ受けます。近年急激に視野の狭くなり始めた自身にとっては、ポートレートレンズというよりむしろ「標準」的にさえ感じ始めているフルサイズ85mmの心地よい画角。学生時代を支えてくれた想い出のNikkor、フリー時代に代えがたい一枚一枚を提供してくれた伝説のCONTAX Planarに続き、3本目の伴侶としてどんな写真に出会わせてくれるのか、今からワクワクが止まらないのです。

 

 

Dsc_1238

開放で被写体に接近すると量感たっぷりのボケが発生します。これぞポートレートレンズの醍醐味です。さすがに口径食の影響もあるので、周辺では玉ボケ像がレモン状に変形することで若干のグルグル感も出てきます。これを嫌うのであれば1~2絞ほど絞り込んであげるとスッキリした背景になる印象です。
 
 


Dsc_0150

ベンチの水平線を基準とするか壁面の垂直線を基準とするか、フレーミングを迷っている際に突風が吹き、上方の枝葉から水滴が飛んでくるというハプニングに遭遇しました。こんな時にカメラを水滴から守らずに迷わずシャッターを切るのはある種の職業病でしょうか。本レンズ一応防塵防滴を謳っているのですが、過信は禁物ですよね。
 

Dsc_1701

画面中央部だけをトリムする1:1の画面比では、さらに口径食の影響も感じなくなり綺麗な玉ボケが現れます。ボケ周辺のエッジを強く感じない柔らかな後ボケはGMレンズを名乗るなら当然でしょうか。前後の大きなボケを使える大口径単焦点は、その重さ・大きさに目をつむる事ができれば優秀なスナップシューターになってくれます。

 

Dsc_0212

ピントはベンチの座面に。日陰での撮影ですが明快なコントラストが凛とした空気の感じを良く伝えてくれます。開放1.4ともなれば、多少の緩さを伴う映像も覚悟しましたが、最新設計のミラーレス単焦点にそれは杞憂というものでした。中望遠レンズは望遠レンズとは違い、例え解放であっても距離の開いた被写体は背景がさほど大きくボケない事を再認識。フレーミングにはもう少し気を遣うべきでしたね。反省反省。

 

Dsc_1623

最短撮影距離近くであれば、大きなボケを活用したマクロレンズ的な撮影もできます。AF時の最短撮影距離85cmでも合焦部の解像感に一切の不満はありません。シャドーをしっかり落とす為、露出を切り詰めてもシャドー部にしっかり諧調が残ってくれるのは有難いです。
 

Dsc_0213

G Masterシーズは、そのボケ味にも注力して設計されています。前後のボケ方に大きな差が無く自然。それでいて被写体の情報を無暗に溶かしてしまわない良質のボケ。合焦部のシャープネスも当然文句の付け処がありません。
 

Dsc_1494

ボケの繋がりを見たくて、公園に設置された遊歩道を撮影。傾きかけた夕刻の日差しが印象的な影を落としてくれます。遠近感の圧縮を見せ始める中望遠レンズ独特の描写でしょうか。昨今スマートフォンなどでは見かけのボケを大きくして小型センサーの欠点をカバーするといった機能も一般化しましたが、「写真」とはなんぞや?とデジタルデータ時代の映像に自分自身の基準を改めて考え直すタイミングに来ているのだと痛感しています。

 

Dsc_0227

木道と水面の僅かな高低差によってもしっかりとボケが発生するのが大口径+中望遠の魅力の一つ。作例の数枚には電子マウントアダプターを併用しNikonのZ5Ⅱを使用。RAW現像の際にLightroom上でレンズプロファイルを対応させることで、色収差・歪曲収差の自動補正を加えます。操作やハンドリングフィールは長年馴染んでいることもあるので、Sony FEレンズの母艦としてNikonボディが選択できるのが存外の喜び。α7RⅣの圧倒的高画素も魅力ですが、Z5Ⅱの小気味よさもまた快適です。

 

Dsc06028

モニター上で像を拡大すると、ハイライト部分にはごくわずかのハロが発生していて、全体的な柔らかな印象を醸し出すのに一役買っているようです。昨今の高性能ズームレンズには「大吟醸」的な隙の無い高性能を感じますが、大口径単焦点に感じる「純米酒」かの如く旨味成分もまた、とても心地良いのです。

 

 

プロフィール

フォトアルバム

世界的に有名な写真家「ロバート・キャパ」の著書「ちょっとピンボケ」にあやかり、ちょっとどころか随分ピント外れな人生を送る不惑の田舎人「えるまりぃと」が綴る雑記帳。中の人は大学まで行って学んだ「銀塩写真」が風前の灯になりつつある現在、それでも学んだことを生かしつつカメラ屋勤務中。

The PLAN of plant

  • #12
     文化や人、またその生き様などが一つ所にしっかりと定着する様を表す「根を下ろす」という言葉があるように、彼らのほとんどは、一度根を張った場所から自らの力で移動することがないことを我々は知っています。      動物の様により良い環境を求めて移動したり、外敵を大声で威嚇したり、様々な災害から走って逃げたりすることももちろんありません。我々の勝手な視点で考えると、それは生命の基本原則である「保身」や「種の存続」にとってずいぶんと不利な立場に置かれているかのように思えます。しかし彼らは黙って弱い立場に置かれているだけなのでしょうか?それならばなぜ、簡単に滅んでしまわないのでしょうか?  お恥ずかしい話ですが、私はここに紹介する彼らの「名前」をほとんど知りませんし、興味すらないというのが本音なのです。ところが、彼らの佇まいから「可憐さ」「逞しさ」「儚さ」「不気味さ」「美しさ」「狡猾さ」そして時には「美味しそう」などといった様々な感情を受け取ったとき、レンズを向けずにはいられないのです。     思い返しても植物を撮影しようなどと、意気込んでカメラを持ち出した事はほとんどないはずの私ですが、手元には、いつしか膨大な数の彼らの記録が残されています。ひょっとしたら、彼らの姿を記録する行為が、突き詰めれば彼らに対して何らかの感情を抱いてしまう事そのものが、最初から彼らの「計画」だったのかもしれません。                                 幸いここに、私が記録した彼らの「計画」の一端を展示させていただく機会を得ました。しばし足を留めてくださいましたら、今度会ったとき彼らに自慢の一つもしてやろう・・・そんなふうにも思うのです。           2019.11.1

The PLAN of plant 2nd Chapter

  • #024
     名も知らぬ彼らの「計画」を始めて展示させていただいてから、丁度一年が経ちました。この一年は私だけではなく、とても沢山の方が、それぞれの「計画」の変更を余儀なくされた、もしくは断念せざるを得ない、そんな厳しい選択を迫られた一年であったかと想像します。しかし、そんな中でさえ目にする彼らの「計画」は、やはり美しく、力強く、健気で、不変的でした。そして不思議とその立ち居振る舞いに触れる度に、記録者として再びカメラを握る力が湧いてくるのです。  今回の展示も、過去撮りためた記録と、この一年新たに追加した記録とを合わせて12点を選び出しました。彼らにすれば、何を生意気な・・・と鼻(あるかどうかは存じません)で笑われてしまうかもしれませんが、その「計画」に触れ、何かを感じて持ち帰って頂ければ、記録者としてこの上ない喜びとなりましょう。  幸いなことに、こうして再び彼らの記録を展示する機会をいただきました。マスク姿だったにもかかわらず、変わらず私を迎えてくれた彼らと、素晴らしい展示場所を提供して下さった東和銀行様、なによりしばし足を留めて下さった皆様方に心より感謝を申し上げたいと思います。 2020.11.2   

The PLAN of plant 2.5th Chapter

  • #027
     植物たちの姿を彼らの「計画」として記録してきた私の作品展も、驚くことに3回目を迎える事ができました。高校時代初めて黒白写真に触れ、使用するフイルムや印画紙、薬品の種類や温度管理、そして様々な技法によってその仕上がりをコントロールできる黒白写真の面白さに、すっかり憑りつかれてしまいました。現在、フイルムからデジタルへと写真を取り巻く環境が大きく変貌し、必要とされる知識や機材も随分と変化をしましたが、これまでの展示でモノクロームの作品を何の意識もなく選んでいたのは、私自身の黒白写真への情熱に、少しの変化も無かったからではないかと思っています。  しかし、季節の移ろいに伴って変化する葉の緑、宝石箱のように様々な色彩を持った花弁、燃え上がるような紅葉の朱等々、彼らが見せる色とりどりの姿もまた、その「計画」を記録する上で決して無視できない事柄なのです。展示にあたり2.5章という半端な副題を付けたのは、これまでの黒白写真から一変して、カラー写真を展示する事への彼らに対するちょっとした言い訳なのかもしれません。  「今日あっても明日は炉に投げ込まれる野の草さえ、神はこのように装ってくださるのなら、あなたがたには、もっと良くしてくださらないでしょうか。」これはキリスト教の聖書の有名な一節です。とても有名な聖句ですので、聖書を読んだ事の無い方でも、どこかで目にしたことがあるかも知れません。美しく装った彼らの「計画」に、しばし目を留めていただけたなら、これに勝る喜びはありません ※聖書の箇所:マタイの福音書 6章30節【新改訳2017】 2021年11月2日

hana*chrome

  • #012
     「モノクロ映画」・「モノクロテレビ」といった言葉でおなじみの「モノクロ」は、元々は「モノクローム」という言葉の省略形です。単一のという意味の「モノ」と、色彩と言う意味の「クロモス」からなるギリシャ語が語源で、美術・芸術の世界では、青一色やセピア一色など一つの色で表現された作品の事を指して使われますが、「モノクロ」=「白黒」とイメージする事が多いかと思います。日本語で「黒」は「クロ」と発音しますから、事実を知る以前の私などは「モノ黒」だと勘違いをしていたほどです。  さて、私たちは植物の名前を聞いた時、その植物のどの部分を思い浮かべるでしょうか。「欅(けやき)」や「松」の様な樹木の場合は、立派な幹や特徴的な葉の姿を、また「りんご」や「トマト」とくれば、美味しくいただく実の部分を想像することが多いかと思います。では同じように「バラ」や「桜」、「チューリップ」などの名前を耳にした時はどうでしょうか。おそらくほとんどの方がその「花」の姿を思い起こすことと思います。 「花」は植物にとって、種を繋ぎ増やすためにその形、大きさ、色などを大きく変化させる、彼らにとっての特別な瞬間なのですから、「花」がその種を象徴する姿として記憶に留められるのは、とても自然な事なのでしょう。そして、私たちが嬉しさや喜びを伝える時や、人生の節目の象徴、時にはお別れの標として「花」に想いを寄せ、その姿に魅了される事は、綿密に計画された彼らの「PLAN(計画)」なのだと言えるのかもしれません。  3年間に渡り「The PLAN of Plant」として、植物の様々な計画を展示して参りましたが、今年は「hana*chrome」と題して「花」にスポットを当て、その記録を展示させていただきました。もしかしたら「花」の記録にはそぐわない、形と光の濃淡だけで表現された「モノクローム」の世界。ご覧になる皆様それぞれの想い出の色「hana*chrome」をつけてお楽しみいただけたのなら、記録者にとってこの上ない喜びとなりましょう。                              2022.11.1

PR



  • デル株式会社



    デル株式会社

    ウイルスバスター公式トレンドマイクロ・オンラインショップ

    EIZOロゴ