SAMYANG AF 135mm F1.8 FE
実力が拮抗した者同士が激しく争う様子を「鎬(しのぎ)を削る」「鍔迫り合い(つばぜりあい)」なんて表現をしますよね。どちらも日本刀を持った侍同士の戦闘シーンにその語源がありますが、転じてビジネスの現場などではシェア争いだったり、近似スペック製品の比較といった場面でもよく使われています。レンズの話となれば「蛍石を削る」「マウント迫り合い」とでも言えばより分かり易い・・・・・訳ないですね。ハイ・・・。実際に、同一焦点距離・開放F値を持ったレンズなどは、その物理特性の優劣や描写傾向の違いなどを比較される事も多く、数多のカメラ雑誌が書店の棚を賑わせていたフイルム時代には、「各社サンニッパの実力を斬る」だとか「レンズメーカー最新高倍率ズーム、どれを買うのが正解か?」と言った様な文言とともに、解像力チャートや実写サンプルを掲載した特集が組まれては人気を博していました。写真少年だった頃の自分も、手持ちのメーカーのレンズが賞賛されれば自分の事の様に喜んだり、買えもしないくせに数十万円もする高級レンズの比較記事を穴が開くほど見返したりと、想い出は尽きないものなのです。
さて、日本のカメラメーカーが発売するデジタル一眼カメラ、その殆どがミラーレス機となってからそれなりに時間が経ちました。レンズ開発も各社一段落し、昨今では人気レンズのアップデート(Ⅱ型の登場)も盛んに行われるようになってきましたが、その商品構成はフイルムカメラやデジタル一眼レフ時代と少々異っていると感じています。過去のカタログが示す様に、当時はメーカーは違えど発売されるレンズのスペックは一部を除きとても似通っていたのですが、最新のカタログには、今までお目にかかる事のなかった焦点距離・画角範囲をもったズームレンズがメーカーを跨いだ共通点を持たずに多数展開されているのが確認できるのです。無論、設計技術の進歩やミラーレス化による設計自由度の拡大による恩恵もあるでしょうが、対象とする撮影シチュエーションやターゲットユーザーの好みが細分化した事により、メーカーとしては共通スペックで他社と「鎬を削る」のではなく、システム全体で個々の特色を出す方が効率良く訴求ポイントをユーザーに提示できるような時代に変わってきたのではないか?と感じているのです。もっとも、基本性能が爆上がりし、且つレンズ単体よりもボディー側の性能によっても描写性能に差が生じるデジタル時代では、レンズ単体での性能比較は以前に比べ意味を持たなくなったという側面もあるのでしょう。(個人の想像の域を脱しませんが・・・)
一方で、そういった流れを感じつつも「定番」と言われるようなレンズでは、依然として各社がバチバチの「鍔迫り合い」を行っているという現状も存在します。いわゆる大三元、開放 F 値が 2.8 クラスの 24-70・70-200mm や、ヨンニッパと呼ばれる 400mm F2.8 の大口径望遠レンズ(フイルム時代の看板はサンニッパ 300mm F2.8 でした)などは、各社の看板としての役割もあり鮮烈な競争を繰り広げていると言って良いのでしょう。そしてここからが本題なのですが、上記のレンズほど注目度は無いにせよ、近年の開放値 F2 以上の明るさを持った135mm 大口径単焦点レンズへの各社の力の入れように、ただならぬ熱量を感じています。固有名称までも与えられた Nikon の Plena を筆頭に、SONYも最高峰レンズの称号 GM 付き、Canonも高性能レンズの代名詞でもある「L」シリーズとするなど、いずれも開放 F1.8 の純正レンズ市場は言わば群雄割拠。一眼レフ時代に Art シリーズで同じく F1.8 を投入していた SIGMA は、なんとミラーレス用として世界最高の明るさとなる F1.4 モデルへと刷新しています。サードパーティー製で言えば、開放 F2 のマニュアルフォーカスながら Zeiss の Otus の存在も忘れてはいけないでしょう。今後は、ミラーレス化が始動した Otus ML シリーズとしての投入も期待できるかもしれません。
さらに注目しなければならないのは、本レンズを始めとした海外メーカーの参入ではないでしょうか。お隣り韓国の Lk SAMYANG が SAMYANG (カナ表記:サムヤン)ブランドで展開、日本国内では2013年頃からケンコー・トキナーが販売を開始したレンズ群は、当初はマイクロフォーサーズや一眼レフのキヤノンEF・ニコンFといったマウントに対応したマニュアルフォーカスレンズの展開が中心だったと記憶します。魚眼や超広角レンズなど、カメラメーカーが純正品でカバーしない焦点距離のレンズや、大口径単焦点レンズなどを廉価販売する手法で徐々に認知度を上げて行きましたが、現在では SONY-E マウントを筆頭にミラーレスに対応した AF レンズを次々とリリース、本年は国内の見本市 CP+ でドイツの伝統的光学メーカー Schneider-Kreuznach と協業生産したズームレンズを発表するなど、精力的な活動に注目が集まります。
国内カメラメーカー渾身の製品がひしめく大口径135mm の戦場へ送り込まれた本レンズは、絞り解放下でも揺るがないコントラストや強烈な解像度、さらには俊敏なフォーカススピードを発揮するカメラメーカー純正レンズと比較すれば、ややおとなしい性能ながらも必要十分な結像性能を誇り、癖が少なく柔らかなボケ味や口径食対策は被写体・シチュエーションを選ばない良好なもので、69cm の最短撮影距離は焦点距離を考えれば十二分な撮影倍率を誇ります。何より、純正品からすれば7割程度となる重量は取り回しの自由度を上げ、価格に至っては1/2~1/3となるなど驚愕のコストパフォーマンスを見せつけます。全体的に樹脂を多用したややチープな外観ではありますが、控えめながらも「L」レンズを彷彿とさせる赤色リングが装飾される心憎い演出も。Viltrox や 7Artisan と言った中国のメーカーからも次々と同様の新製品が発表される今となっては、135mm大口径レンズの市場は「鍔迫り合い」どころではなく、光学戦線の最前線となっているのかもしれませんね。
大口径望遠レンズの場合は状況にかかわらず大きなボケが発生するため、個人的には癖の強いボケ方をされるレンズだったりすると、利用が限定されてしまうと感じます。本レンズにはその心配はなく、前ボケ・後ボケが混在する場面でも、とてもスッキリとした描写をしてくれます。口径食の悪影響もあまり感じられず、大きなボケが生み出す立体感を堪能させてくれます。
ボケのエッジも非常に緩やかで、奥行きのある被写体でもボケ像によってそれを邪魔される事はありません。遠近の圧縮感を強く感じ始める焦点距離のレンズですが、淡いトーンも加わってそれぞれの距離感を美しく再現してくれました。
大胆に前ボケを入れてみましたが、こちらもエッジ感は少なくきれいにボケてくれました。前後の美しいボケによって、合焦部が自然に引き立てられるので、ボケ像の処理に困る事は無く大胆なフレーミングが出来るのは有難いですね。
レンズ先端からのぞき込むと、大きな曲率を持った前群ガラスの縁が、まるでアポダイゼーション光学系を採用するレンズの如く暗く着色されたように見える事があります。そういった特殊な光学設計をされているといったアナウンスはされていませんが、柔らかいボケのエッジと控えめな口径食によって形づくられる美しい背景描写はSTFレンズのそれを思い出します。
135mm という焦点距離を考えると、最短撮影距離 69cm はとても優秀な数値。あ、この距離でもイケるのか、というラッキーシチュエーションが案外多いものです。当然被写界深度は激浅になりますがら、画面の殆どをボケ像が占めるといった大口径望遠レンズならではの描写も楽しめます。
2段程絞れば、画面全域が解像度の高い良像域で満たされます。コントラストも上がり、説得力の高い描写となります。絞るのであれば高性能ズームで事足りるのでは?と自問自答したりもしますが、「単焦点レンズ」を使っている、という感覚に浸るのも決して悪くはないものです。所有欲を満たすほどの高いビルドクオリティーを誇る製品ではないのですが、純正の同スペックレンズに比べ非常に軽量に仕上がっている点は、大柄になりがちな望遠レンズではポイントが高いと思います。
日没間近のかなり強烈な斜光線で、逆光耐性を見てみます。さすがにエッジ部には色付いたゴーストの様な物も確認できますが、大きなコントラストの低下や画質的に破綻を感じる部分も無く、総じて好印象。近距離の撮影ですと背景の玉ボケも豪華になり、いかにも大口径レンズって感じがいいですね。
日没にはまだ間がありましたが、周辺を山に囲まれた高原では早々に直射日光が届かなくなり、柔らかい天空光によって照らされた一輪のバラに目が留まります。本レンズは開放では解像力が少しだけ落ちる印象(それでも必要十分ですヨ)がありますが、花びらの柔らかな質感を表現するのには、むしろ好都合。積極的に絞りを開けて使いたいと思う瞬間も少なくはないのです。
















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