M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO
OMデジタルソリューションズをネット上で検索する際、「オリンパス」と入力してしまう癖がなかなか抜けない筆者のようような世代の人間の頭の中には、オリンパス=マクロという図式がこびり付いている方も多いのかと想像します。理由として、内視鏡や顕微鏡といった医療機器で多くの功績を上げている事や、接写専用のレンズやベローズ、フラッシュといったアクセサリーが他社に比べ非常に多く用意されていた事はもちろんですが、90mm と50mm に存在した解放f値がf2のマクロレンズの存在も大きいでしょう。マクロレンズでは接写時の結像性能を重視する設計の為、現在でも多くのレンズでf2.8~4を解放絞りとするのがセオリーですし、「1絞りの重さ」が現在のデジタルカメラとは比べ物にならなかったフイルムの時代には、特別な存在として記憶されているのも当然です。付け加えるならデジタル一眼Eシリーズにも、フルサイズ画角で100mm相当となるマクロレンズにしっかりとZUIKO DIGITAL ED 50mm f2Macroを存在させていた点なども、強い印象となって記憶に残っています。
ところで、これまでOMデジタルソリューションズのマイクロ4/3フォーマット用レンズラインナップには、オリンパス時代から引き継いだ30mm f3.5・60mm f2.8と2本のマクロレンズが商品化されていました。小型センサーの特性を生かし、いずれもフルサイズ換算で2倍という高い撮影倍率を誇りますが、それ以外には「光る何か」を感じられなかったのは否めません。マイクロ4/3フォーマットを愛用する自身も、マクロレンズ購入に際しては迷い無くDG MACRO ELMARIT 45mm F2.8を選択していた程ですし、前述した「オリンパス=マクロ」の図式はやはり過去の物だったのでしょうか。
さて、同社から新規にリリースされた本マクロレンズ、汚名返上・名誉挽回などと言うと少々大げさですが、旧オリンパス時代を彷彿とさせる相当に尖ったスペックを引っ提げての登場となりました。フルサイズ換算で150~200mmの前後の画角を有するいわゆる望遠マクロレンズは、フイルム時代には比較的当たり前の存在だったのですが、ミラーレスデジタル専用としてカメラメーカーがリリースするのは初の製品となります。解放絞値はf3.5と一見すると凡庸ともとれるかもしれまんが、注目すべき点はそこではなく、マクロレンズにおいて重要な「撮影倍率」なのです。通常使用で等倍(フルサイズ換算で2倍)を達成している撮影倍率が、搭載されたS-MACROモードに設定することでなんと2倍(同4倍)となり、2倍のテレコンバーター併用時には脅威の4倍(同8倍)にも到達するのです。当然ながら、これまでもこれに類する高い倍率での撮影を可能とさせるアクセサリーは存在していましたが、レンズ単体でAF・AEそして手振れ補正の恩恵をうけられる環境でのスペックとなれば、これはもう別次元の話です。
この篠沢教授もビックリの撮影倍率は、数字からも分かるように解剖顕微鏡にも匹敵するような接写時の拡大撮影を可能としますが、長焦点化によってもたらされた長いワーキングディスタンスと大きなボケ、伝家の宝刀でもある強力な手振れ補正や防滴構造を搭載することで、これまで取れなかった撮影スタイルや、新たな被写体への挑戦までも可能としてくれるでしょう。当然のことながらマクロレンズに要求される高い解像力を与えられたレンズではありますが、合焦面前後には美しく且つなだらかにつながって行くボケ像が描かれ、極端に浅い被写界深度下であっても癖の少ない上品な画像を提供してくれます。マクロレンズとは言えど、遠景の被写体であってもその解像感は失われず、汎用性の高い望遠レンズとしても十二分に活躍してくれるでしょう。18枚という贅沢な構成のレンズではありますが、手に取るとそのあまりの軽さに、解放f値を3.5と抑えたメリットを感じ取れます。マストバイというよりも、このレンズの為にマイクロ4/3システムを追加しても良い、そう思う方も少なくはないのではないでしょうか。「マクロ撮影にOMデジタル在り」ひょっとして我々ユーザー以上に喜んでいるのはメーカーサイドの方々なのかもしれませんね。
熱帯植物特有の大きな葉。外光を取り入れた半逆光下で絞り解放描写をチェックしました。葉脈一本一本を鋭く描く中心部の解像度に文句のつけようはありません。ごく僅かに感じるハイライト部の滲みと、前後のなだらかなボケ像が良い感じです。
木陰の小さな蕾を接写。少々高い位置に存在する被写体で45mmでは踏み台が必要な場面ですが、望遠マクロのメリットを存分に発揮できました。90mmでないと撮れない被写体もありますが、同様に45mmの画角も絶対必要なのです。焦点距離のバリエーションが増えると撮影できる被写体が増え有難いのですが、荷物の増加は避けられません。マイクロ4/3で良かったと思える瞬間です。
45mmと比べやはりボケは大きくなります。結果どこにピントを置くかで写真の内容も変化をしますが、前後のボケ像に大きな偏りはないので、必要以上に神経質にはならなくて良いみたいですね。
解像度の高いマクロレンズには、ボケも硬くなる個体も存在しますが、本レンズは前後にとても柔らかいボケ像を形成してくれます。大胆に前ボケを使ったフレーミングも嫌みな癖が発生せずに安心して取り組めます。
植物園で花の撮影時、左手首に違和感を感じさせた犯人は「蝶」でした。しきりと口のストローを伸ばして私の手首から「何か」を吸っていました(笑)。手振れ補正と軽量なレンズの特徴を生かし、片手でも難なく撮影ができました。ずいぶん昔に曲がり角を過ぎた私のお肌と、すこしくたびれた感じの蝶の羽根が奇跡のコラボを演じでくれました。
昆虫にも詳しくはないので・・・。バッタやキリギリスの一種かと思いますが、バラにとまったこの一匹、その大きさは小指の爪ほどです。小さな被写体ですがマクロレンズを通して撮影することで、改めてその緻密な造形に驚きます。被写界深度が極端に浅くなるため、手持ち撮影ではピント面の維持が困難です。秒間10コマ以上の高速連写で数十枚を撮影したうちの一コマですが、価格高騰が続くフイルムでは簡単に(私の懐事情では)真似ができない撮影法ですね。そもそもモーターの音で逃げちゃうかもしれないですしね。
メインは蕾、背景は咲いたバラの花です。溶けるという表現が似合う望遠レンズならではの大きなボケを生かした撮影法でしょうか。やはり浅い被写界深度のため、ピント位置には神経を使います。使う絞りによる被写界深度とボケの大きさを相談しながらの試行錯誤が必須ですね。
夕飯の買い出しに出向いたスーパーの駐車場。キリスト教会堂の方向に丁度日没を控えた太陽が。雲の様子や太陽の位置が刻々と変化をしますが、超逆光下(良い子【一眼レフ】は真似しないでくださいね)でも安定した描写力には驚きました。構成枚数の多いレンズですが、この条件下でもゴースト・フレアは最小限。遠景でも優秀な結像性能を見せてくれます。
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