Lumix G X VARIO 35-100mm/F2.8 II
いつの頃からでしょうか、f2.8という比較的明るい解放値で設計され、広角域・標準域・望遠域それぞれの画角を持つ3本のズームレンズを巷では「大三元」という麻雀の役になぞらえて呼んでいます。中でも望遠域を担当するフルサイズ換算で70-200ミリ相当の画角を持つレンズは、ポートレート・スポーツ・鉄道・風景など、対応する被写体も多いため人気が高く、メーカー渾身の高性能レンズがひしめき合っています。大口径レンズ故の大型フードや三脚座、メーカーによっては白色の外装が用意されるなど、そのスペシャル感も高くなっていることから、入門者にはいつかは手に入れたい憧れの機材、ベテラン勢からすれば一種のステータスシンボルとして、レンズ界のスーパースター的存在となっています。
さて、パナソニックからリリースされる本レンズは、35-100ミリという、フイルム時代の標準ズームレンズのような焦点距離で、前述の大三元望遠ズームに相当する画角域を担当しています。小型センサー機を利用する最大のメリットが機材全体の小型軽量化にあることは、幾度となく触れてきましたが、その特徴は本レンズにも顕著に表れています。フルサイズミラーレスであるニコンZシリーズ用のNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR Sの重量1440グラム・全長220ミリ・フィルター口径77ミリと比べると、本レンズは重量357グラム・全長99.9ミリ・フィルター口径58ミリとその差は明らかで、全長で半分以下、重量に至っては1/3以下というダウンサイジングになります。これにはフルサイズ用では小三元などとも言われている解放f4クラスのレンズであっても到底かないません。フードを付けたままでも上着のポケットに十分収まってくれるので、レンズ交換時のハンドリングも良好で、そのあまりに軽さ故に、カメラバックのサイドポケットに仕舞ったたことを忘れてしまい、何処かに置き忘れてしまったのかと、撮影中に焦った事もあるほどです。以来、撮影中のカメラバックの中では、常時フードを付けたまま保存する癖がついてしまい、小型であるというせっかくの長所を台無しにするという本末転倒な事態を招いています。
あまりに外観が小柄であることと、小型のペットボトル飲料ほどしかない重量の為、なんだか描写性能も軽く見てしまいがちですが、やはりそこは大三元の一翼、なかなかに侮れない魅力を放ちます。ライバルとして頭に浮かぶのは、オリンパスのMZD40-150/2.8PROとなるでしょうが、強烈なシャープネスは同レンズに譲るとしても、本レンズは独特の雰囲気をまとった個性的な描写をします。もちろん高性能レンズとして、絞り解放から十分なシャープネス発揮してはいますが、前後に広がるやわらかいボケ像が加わることで、とても優しい映像を提供してくれます。カミソリのようなエッジを見せる40-150/2.8PROは、若干ボケ像にも硬さを感じる場面もあって背景処理に気を遣う事もありますが、本レンズ(特にテレ側)ではその心配は無いようです。とりわけ、植物や人物など「柔らかさ」や「しなやかさ」といった質感を求める撮影の場合には、本レンズの方がマッチする事も多いのでしょう。普段は三徳包丁で間に合わせる調理も、時折菜切り包丁を手にすると、その存在意義を確かに感じるかの様に、ライカブランドレンズの中で埋もれてしまいがちなパナソニックレンズの確かな実力を感じる一本です。決してバーゲンプライスとは申しませんが、フルサイズ用の他社レンズと比較すれば十分に「お買い得」な一本。40-150/2.8PROを所有していても、無駄な防湿庫の肥やしとはならないでしょう。
湖面に点在するのは、水温む前のヒツジ草の一種でしょうか。凪いだ水面に映った樹の枝に桜が咲いているようです。このレンズの映像を見ていると、なんとなくこちらの気分までほこっりしてくるような気がします。
こういった被写体は本レンズが得意とする所。葉の柔らかさ、含んだ水分の重さが伝わってくるような優しい質感を見事に表現してくれます。
偏見かもしれませんが、なんとなく「日陰」の被写体がマッチする本レンズ。ズームであることは日常の撮影での利便性を上げてくれます。ワイド側の35ミリはフルサイズでいえば中望遠の画角。気になった風景をちょっと切り取るのにとても便利です。
前後のボケはとても柔らかで、質も等しく好感度高め。立体感、空気感を絶妙の塩梅で描き出してくれます。
シャープネスの高さを誇るレンズでは天敵となる事もある「猫じゃらし」のボケ。ガチャガチャとうるさくなって合焦部の邪魔をしてくれる事も多いのですが、見事な「いなし技」。撮影に出かける際は焦点距離が被っていても40-150・35-100の二刀流が理想かもしれません。
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