M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO
振り返ってみますと、自身と写真との関わりには幾度かの転機があったと実感しています。そして、その転機の原因には機材が絡んでくることも少なくありません。そんな経験をさせてくれた機材の一つに「単焦点中望遠レンズ」があります。およそ85~150mm前後の焦点距離(35ミリフルサイズセンサーにおける)と、f2よりも明るい解放値を与えられたこれらのレンズは、その光学的特性から遠近感の誇張によって被写体を過度に変形させる心配もなく、明るいf値を使う事による前後のボケは効果的に対象を浮かび上がらせてくれます。また、人物が被写体となれば、相手との距離が適度に取れる事で、会話や指示を出す際に余計なプレッシャー与えにくく、ライティングの自由度も上げ易いという利点も生み出します。
そんな理由から「ポートレートレンズ」と称される事も多いこの「単焦点中望遠レンズ」と、私との出会いは暗室ワークを始めとした本格的な創作活動を開始した高校時代に遡ります。当時師事していたカメラ店の店主に勧められ、後にのめり込んでいった人物撮影用に入手したのが「AF Nikkor 85mm f1.8」という「単焦点中望遠レンズ」です。それまでは、風景や日常のスナップ、部活動の記録などの為に広角や望遠域のズームレンズを多用した撮影が多かった為、単焦点中望遠レンズで撮影された写真には、まさに「目から鱗」が剥がれ落ちたかのような衝撃を受けました。人物を浮かび上がらせる大きなボケ、引き伸ばし用のピントルーぺ像に浮かんだ恐ろしいまでの解像感は、それまで「レンズを変えて変化するのは画角と遠近感だけ」と漠然と思っていた自分の感覚を一変させただけでなく、純真無垢な写真少年(当社比)を、ハンドルネームにレンズ名称を使い、レンズの描写をアテに一杯呷ってはブログの記事を書く、そんな大人に育ててしまったのです。
さて、写真人生の一大転機とも言える出会いをもたらせたこの「単焦点中望遠レンズ」ですが、マイクロ4/3フォーマットデジタルカメラ用にも、各社から数種類が用意されています。オリンパスからリリースされているのは解放f値1.7と1.2、2本の45mmレンズと、少し焦点距離を伸ばした75mmf1.8の3本が当てはまるでしょうか。M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8は既に別項で取り扱っておりますので、45mmへ目を向けたいと思います。撒き餌レンズなどとも称され3本中最廉価となる15mm/1.7であっても十分な明るさを誇りますが、ひと絞り程度であっても「明るい方が好き」(あくまで予算が許すなら)な筆者としましては、やはりPROを冠する本レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO」へと食指が動きます。
オリンパス純正レンズのラインナップでは、最も明るいレンズの一本となる本製品は、35ミリフルサイズカメラの90mm/1.2相当ですから、その小柄な外観には驚きすら覚えます。描写の実力は、すでに同ラインの25mmの体験から何の疑いも持ち合わせていませんでしたが、期待以上の映像に終始口角が上がりっぱなしでした。開放では非常に先鋭度が高いながらも、僅かに纏ったハロによって絶妙な柔らかさを演出。紗をかけたようにコントラストを僅かに控えた極上なボケが合焦部を一層引き立てます。1段ほど絞るだけでハロは消え、全体の解像感はさらに上がり、f2.8辺りからは被写体の実物を切り取ってきたかの様な瑞々しさに、ため息を漏らすほど。フォーカスクラッチも搭載していますから、f1.2のごく薄い被写界深度であってもMFで瞬時にピント修正ができるのも有難く、標準装備されるレンズフードも深さやロック方法に不満はありません。同画角のフルサイズ用レンズと比べれば1/3程度となる価格はもはやバーゲンプライス。近似焦点レンズのPanasonic製42.5mm/1.2と、どちらを入手すべきか、それが唯一の悩みの種となるでしょう。
解放絞りでは独特の柔らかさを持った、まさにポートレートレンズ。それでも合焦部の解像感は悪くありません。絞ごとに描写の変化を楽しめるのは、明るいレンズの特権でしょう。
こちらも解放。さすがにf1.2です。小型センサー機でもこのボケ量。ボケ像は本当に癖がないお手本のようです。
雲のディテールを残すために、あえて露出を切り詰めます。小型センサー機ですので、f8程度まで絞れば中望遠とは思えないような被写界深度を手に入れられます。
f2.8です。柔らかさを残しつつも極上のピントのキレ。性能の高いレンズを使うと、ちょっぴり上達したような気分に浸れます。
ボケ像が非常に素直なので、こういった被写体も画面が騒がしくならずに済みます。
明るい被写体が画面のウエイトを占めると、多分割測光とはいえカメラ任せの露出はアンダー側に転がります。しかしあえて無補正で。歴史を刻んだ車体の重厚感にはこのくらいのトーンが似合います。絞り込んだ時の隙のないシャープネスが被写体の魅力を高めてくれました。
近接描写も優秀です。ボケの始まり方も非常に癖がなく、ピントのキレも文句がありません。
一眼レフでは、ファインダーを覗くのがためらわれる(というか、危険な)被写体。自動で減光されるEVFならではの撮影でした。逆光耐性も十分で、思った以上にトーンが再現されました。
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