Carl Zeiss Distagon 21mm f2.8 ZF.2
20・24・28・35・50・85・100・200・300・400・500・600・・・・
この不規則な数値の羅列を目にして「レンズの焦点距離」を想像する御仁は、ねっからの写真愛好家、もしくはカメラマニアという事になるのでしょうか。金属製のパトローネに入れられたコダック社による規格「135フィルム」と、そのフイルムを利用して24x36mmサイズの原版を撮影する、今で言う「35mmフルサイズ」は、写真の一つのスタンダードとして長期間存在します。その結果として、本来は画角を表す数値ではないはずのレンズの焦点距離値が「画角を表す目安」として定着していました。28mmと言えば広角、同じように、50mmは標準、500mmは超望遠といった感じで、焦点距離値を耳にすると頭の中では35mmフルサイズでの画角が自動的に想像されてしまうのは、一見便利なようで、実はフイルム時代を長く過ごした我々世代の悪癖なのかもしれません。
2023年現在ではデジタルカメラが一般化し、デジタル一眼には様々なサイズ(メジャーなのはフォーサーズ・APS-C・35mmフルサイズの3種)の撮像素子が採用されています。結果、レンズの画角を表す為には焦点距離値だけでは不十分となり、例えば「フォーサーズで25mmの画角(フルサイズ換算で50mm相当の画角)」といった様な併記が必要になりましたし、APS-Cサイズのセンサーを搭載したデジタル一眼を販売する際に、お客様がフイルムでの撮影経験が長そうな(比較的年配の)方の場合には、付属する18-135mmのレンズは、フイルムカメラで言うところの28-200mmぐらいのイメージで・・・・という補足説明も不可欠になりました。単純に画角を表した数値をレンズスペックに据える事もそろそろ必要なのかと思いつつ、焦点距離値から得られる情報が多岐に渡るのも事実なので、この問題の解決はなかなかに一筋縄ではいかないといったところです。
さて、焦点距離を話題にしようとしたら壮大な脱線をした訳ですが、本レンズ、35mmフルサイズでの超広角レンズを代表する画角を持つ21mmの紹介です。日本のメーカーコシナが製造・販売したニコンFマウント用のモデルですが、かつて私も愛用したYASICA/CONTAX時代のDistagon 21mm f2.8を直系の祖先にもつ伝統のレンズです。フイルム時代のそれも、設計は比較的新しい方に分類され、倍率色収差を軽減する為に広角レンズでありながらも特殊低分散レンズを採用するなど、高性能化の為に国内メーカー同等品に比べ全長・重量・価格、全てが大きく上回った弩級のレンズでした。本レンズも後継するMilvusシリーズの発売を受け生産を完了してしまいましたが、そのポテンシャルが決して劣る訳ではなく、高画素機であってもその魅力は十二分に発揮されます。開放から合焦部の解像感は非常に素晴らしい為、本来なら被写界深度をアテにしたラフなピント合わせでも十分な超広角レンズですが、拡大画像を利用したピントの追い込みが楽しくなります。併せて前後のボケも比較的癖が少なく被写体の立体感を際立たせます。極端な周辺減光も起きにくいので、安心して解放から利用ができるでしょう。いやむしろ積極的に開放を使いたくなる、そんな広角レンズなのです。Classicシリーズに分類される本レンズは、金属を利用したピントや絞りの操作感も上々で、数々の操作を経た上で得られる「一枚」の満足感は別格となります。コシナ製Zeissには、ライカMマウント用に同じ焦点距離でZM Biogon 21mm f2.8も存在しています。マウントアダプターを併用すれば同一ボディでの試写も可能となりますから、設計理論が異なる2本の比較、是非ともチャレンジしてみたいものです。
余談となりますが、この近辺の画角を持つレンズ、日本のメーカーは20mm、Leica・Zeissといった海外勢は21mmという焦点距離を採用しているのですが、いったい何故なのでしょう。明確な理由があるのなら是非とも伺いたいのです。
「空気感」捉えどころのない言葉の様にも聞こえますが、確かに「空気」という、その透明な存在が写っている。そんな一枚でしょうか。本レンズ、そんな気分になる映像を手にできる機会が多い気がするのです。
ボケ像の確認の為に選んだ被写体。開放絞りですが、背景のボケ方にも癖が無く積極的に開放描写を楽しめます。接写域での撮影ですが、大きな破綻も無く想像以上に素直な描写です。広角レンズですが、接写・解放となれば必然的に被写界深度は浅くなります。AF対応のレンズではないですが、極上の操作感でピント合わせが楽しくなるレンズです。
カラーも気持ちの良い映像を提供してくれます。RAW現像時Lightroomをメインで利用していますが、収差補正のプロファイルにカメラメーカー以外のレンズも網羅しているので、いざという時活用できます。もっとも、元のレンズもかなり高度な補正をされている場合は、無補正でも十分だったりするのですが。
LeicaやZeissのレンズを使った時、希にその結果は「写真が上手くなった」と錯覚させてくれます。久方ぶりにそんな感覚に陥らせてくれた一枚。フイルム時代から愛用するレンズの画角と描写なのですが、高画素のデジタルカメラによって新たな息吹を吹き込まれたようです。借用したレンズですが、これは間違いなく「買い」の一本だと確信。
縦位置のフレーミングで強調されたパースが気持ちの良い一枚。合焦部の木材の質感は気味が悪い程です。超広角独特の周辺減光も丁度良い塩梅に雰囲気を高めてくれました。
センサーとレンズ性能の相乗効果でしょうか。モノクロ撮影での諧調再現がとても気持ちが良いのです。Summicronでも感じたのですが、ハイライトを飛ばさぬ様な露出決定を行ってもシャドー部の諧調がしっかりと残ってくれ、どうしてもローキーに寄せた露出決定が増えてしまう今日この頃です。
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