Leica Summilux M 35mm f1.4
「ライカってずいぶん高いけど・・・なにが違うのだろうか?」
こんな疑問が私の心に沸き上がったのは、写真学生時代の後半、 自身の作風のマンネリ化に悩んだ頃であります。
水洗浴から上がったフィルムを初めて見たときから、その結像の特異性は ある種の衝撃を私の心与え、その後のライカとの付き合いを決定づけました。 この旧式のズミルックスは、非球面が導入され、圧倒的なまでの高性能を謳った 最新のズミルックスの登場まで、「その場の空気まで写し込む」といった評価に代表される 古き良きオールドライカレンズの薫りを、新品で楽しむ事のできる数少ないレンズとして、 ほぼ登場初期の設計のまま、比較的長期間製造を続けられていました。
ズマリット50ミリとともに「クセ玉」と良く称されるこのレンズは、 主に、開放付近では各収差の影響からくる意味不明なまでのハレーションとゴースト、 そして像のにじみを発生し、直接結像画面をファインダーで確認できないM型ライカでは、 被写体や光線状態を十分考慮しないと、結果が予測と一致しないフォトグラファー泣かせのレンズです。ところが、その独特な丸みを帯びた描写は何物にも代えがたい特徴的なもので、さらにf値5.6あたりから徐々に絞り込むと描写は一変。 まるで大判で撮影したかのような高い解像度を見せ、しかも像の潤いを損なわない 素晴らしい描写を見せてくれます。高性能化した新型が登場しつつも、昨今では中古相場が高値で安定してしまっているのも、単なる希少性に起因するものでは無いようです。
諸般の事情からすでに手元には残っていませんが、今一度この手に納める日を夢に見る 愛すべきレンズの一本であります。
大学の卒業制作の為、宮沢賢治の故郷でもある岩手県花巻に何度か訪れました。所沢のアパートから高速道路を使っても6時間以上の道のり。午前中に出発しても到着するのは決まって日没間際でした。現地の空気を取り込み、絞り込んでも硬くなりすぎずに精密感だけが増してゆく独特の遠景描写の虜になりました。
真夏の小岩井農場。東北の空にはどことなく秋の気配も。距離計ではピント合わせが難しい被写体ですが、焦点距離35mmですのでアバウトでもなんとかなるものです。
古い建造物+ツタ系の植物は大好物な被写体です。修復を重ねた古いサイロの壁面と緑盛んな植物のコントラストが良い感じです。被写体、光線状態ともにフラットな状況ですが、絶妙な立体感が宿りました。
花巻の帰路、芭蕉の句で有名な中尊寺に足を延ばしました。にわか雨が上がった後の湿った空気感が良く伝わってきますね。絞りを開けた際の僅かなハロが木の根の丸みをうまく引き出してくれました。
ズミルックス35mm最大の特徴は、やはり絞りを開けた状態での何とも言えない甘い描写ではないでしょうか。宮澤賢治ゆかりの地「羅須地人協会」での一枚です。実際にこの床の上を賢治が歩いていた姿を想像すると不思議な気持ちになります。木の丸みや温度、湿度といった状況を記録する際のマッチングは最高でした。
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