Voigtlander NOKTON 42.5mm F0.95
レンズの明るさが F1.0、もしくはそれ以上に明るい(F値は小さい)レンズが新たに発売されると、高い確率で「人の眼の明るさ」とか「人の眼より明るい」といった表現をセットで目にします。結果「人間の眼の F値 は 1.0」なのだと反射的に思ってしまう方も多いでしょう。キリの良い数字ですので、むしろ人間の眼を1.0として F値というものが定められているのか?なんて誤解をしてしまう可能性だってあります。実際にはレンズの明るさを表す F値は「焦点距離÷有効口径」によって求められる値ですから、解剖学的に?網膜=撮像面・水晶体=レンズと考えて導き出された数字(おおよそF2.8ぐらい)が、本来の眼の F値という事になります。網膜が捉えた光は、カメラで言うところの色補正やISO感度の調整といった処理を脳内で行い映像情報として認識されますが、つまるところ人間はF2.8のレンズを通して入ってきた光を脳内で8倍増感し(イメージとしてはISO100を800に)、F1.0のレンズを通して入った光と同じ明るさとして受け取っている、が「人の眼の明るさ」の正体だったという話です。「君の瞳は一万ボルトだけど、俺の瞳は Elmarit なんだぜ」とでも言えば昭和のカメラ女子は一コロなんだとか・・・。
人間の眼の F値の話はそれとして、レンズが明るくなると言う事には大きなメリットが存在してます。同一条件下で暗い(F値が大きい)レンズと比べ「大きなボケを使う事ができる」「早いシャッタースピードが利用できる」「ISO感度を下げる(上げなくてすむ)事ができる=ノイズの発生が抑制される」などが代表的で、これらは表現の幅を広げたり仕上がる映像の品質を上げることができる可能性を意味します。ミラーレス機以前の一眼レフ機では、ファインダー像が明るくなる事でピント合わせやフレーミング時の精度も上がり、撮影時の余分なストレスを軽減するといった効果も期待できますし、撮影途中に感度を自由に変更できないフイルム撮影であれば、レンズの明るさがそもそも撮影の可否を握る場面さえあるでしょう。
さて、システム全体のダウンサイジングや軽量化といったメリットが望める筆者愛用のマイクロフォーサーズ規格のカメラですが、反面小型であるセンサーに起因する物理特性がデメリットとして現れる場面も存在します。大型センサー機に比べ、同一画角に於いて大きなボケが得にくい点、高感度撮影時におけるノイズ発生量の増加がそれに当りますが、これらに対して、前段で解説した「明るいレンズ」のメリットが有効に作用する事をお分かりいただけると思います。大型化しやすい明るいレンズも小さく軽く設計可能である点を含め、マイクロフォーサーズは、明るいレンズがその存在価値を存分に発揮できるフォーマットであるとも言えるのではないでしょうか。
かつて世界のカメラ市場に君臨した Voigtlander を、現在自社が展開する交換レンズ群のブランド名として採用する COSINA は、こういった明るいレンズ+マイクロ4/3フォーマットの特性にいち早く着目してか、マイクロ4/3規格の第一弾ミラーレス一眼、 Panasonic DMC-G1登場から二年後には NOKTON 25mm F0.95 を発売しています。以降10.5mmから60mmまで6種全ての単焦点レンズをF1.0を超える明るさでラインナップしましたが、中でも SUPER NOKTON 29mm は、F0.8という写真用レンズとして例を見ない驚異的な明るさを全長88.9mm 重量703gという諸元で達成しています。設計思想も目指す描写のベクトルも別物なのであくまで参考ながら、共に「夜」を想起する語源を持った、フルサイズ用で近似スペックのモンスターレンズ Nikkor Z58mm F0.95 S Noct の全長は153mm で、かつ重量は2000g!! を誇るのに、です。
それでは、NOKTON F0.95 ファミリー中、フルサイズ換算で85mmの画角を与えられたNOKTON 42.5mm F0.95 すなわち本項の主人公へ話を移しましょう。標準レンズよりもやや狭い画角を持ち、F0.95 がもたらす豊かなボケが情緒ある空気感と共に被写体を浮かび上がらせるこの一本は、まさにポートレートレンズの王道。焦点距離をあえてキリの良い43や45とせず、42.5を採用した設計者にはやはり「85mm」への強いこだわりがあったのだろうと思います。被写体認識AFによって瞬時に瞳への合焦を決める同一焦点距離の Panasonic NOCTICRON と違い、優れた操作感をもったピントリングの前後によってじっくりピント面を追い込んで行く作業は、懐かしさと同時に写真撮影の楽しさを再認識させてくれます。マイクロフォーサーズ規格準拠とは言え、電子接点を持たずにデジタル補正をアテにしない姿勢にも素直に敬意を払います。最短撮影距離は、システムとしての長所を生かし0.23mを達成。なんと1/4倍での接写を可能にし、浅い被写界深度を生かした近距離撮影では最短0.5mのNOCTICRONに対し若干ですがアドバンテージを発揮します。高コントラスト・高解像度を売りにする現代のデジタル専用レンズの中においては、異質ともとれる緩さを持った独特な解放描写はNOKTON 25mm 試用の際に感じたイメージと共通する心地の良い物となりました。全長約75cm・重量571g・フィルター径58mmの躯体は上着のポケットにすっぽりと入る程。視野の狭くなった近年ではお気に入りの画角ですから、文字通りの「味変」に味を占めて店舗のストックにすんなりと戻せない自分を許したいと思います。
ハイスピードレンズといえば、やっぱりアベイラブルライト下での撮影が似合います。すっかり日の落ちた繁華街での一枚。開放描写ですが、F0.95という極めて明るいレンズながら、前後のとても素直なボケ像には好感が持てます。正直もっとイカレタ画像を想像していただけに嬉しい誤算。ピント面はカリカリにシャープな結像をするタイプではないようですが、こういった被写体にはジャストマッチ。周辺光量の落ち方も自然で品の良い物です。
開放時は特に感じるのですが、収差の影響からか、合焦面から外れた部分は思った以上に像が滲んで写る印象があります。結果として被写界深度は数値感覚以上に薄くなっている印象です。EVF+マニュアルフォーカスでこの極薄ピントピークを操るのは至難の業ではありますが、ボケの中にスッキリと合焦部が浮かび上がってくるような描写はクセになります。
搬出作業でごった返すイベントホールのトラックヤード。中望遠ならではの遠近感圧縮や切り抜きによる画面整理で、映像に凝縮感が漂うのがこの辺りの画角レンズを好む理由。感度やコントラストを上げて画面に迫力を出す手法もありますが、せっかくのハイスピードレンズなので標準感度のままシャドー部のトーン変化を楽しみます。一見オールドレンズのような柔らかなコントラスト描写ではありますが、ディープシャドーが曖昧にならないのは、良好なフレアコントロールのおかげでしょうか。
派手にゴーストが出るかと思いきや、スッキリと写って拍子抜け。開放時は特にオールドレンズ的な味わいを持った緩い描写のレンズではありますが、強い光源であっても上手にいなしてくれる辺りは、やはり最新のレンズなのだと再認識。
F1.2や1.0さらに0.95といった極端に明るいレンズはフイルム時代から存在していましたが、開放時の画質やボケ味といった部分まで考えると、率先して使いたくなるレンズかどうかは疑問符が付き纏うのも本音。本レンズは0.95という最高レベルの明るいレンズですが、解放を積極的に使いたくなる一本と感じています。それにしても F1.0と F0.95のEV値上の差は、おおよそ1/6段程。感度が比較的自由になるデジタル時代にこの差を削ってくる設計者の魂、ナイスですねぇ。













コメント