MINOLTA AF REFLEX 500mm f8
凸レンズや凹レンズを通過する際に光が曲がる(屈折する)性質を利用して焦点を結ぶ様に設計された大多数の写真用レンズでは、一般的に焦点距離が長くなればなるほどレンズ全長も長くなります。設計手法や利用する光学素材によっても変化しますので一概には言えない部分もあるのですが、大雑把に言ってしまえば50mmの焦点距離のレンズならば5cm。100mmならば10cmといった感じでレンズの全長は変化します。スポーツ中継のカメラマンブースに、大砲の様なレンズが並んでいる様子を見た事もあるかと思いますが、それは遠景の被写体を大きく写す為の望遠レンズの焦点距離が500mmや1000mmと非常に長い事が要因の一つです。加えて、画像の明るさを得るためレンズ口径も比例して大きくする必要があるので、超望遠レンズは「長く」「大きく」「重く」大砲のような外観となり、そして価格も「高く」なるのが一般的なのです。
さて、上記の「屈折光学系」をざっくりと1枚の凸レンズで説明すると、そのレンズと焦点が結ばれる(ピントが合う)点との距離が「焦点距離」となるのですが、レンズではなく向かい合わせに配置した鏡(凹面鏡)の反射の利用によって光を往復させて焦点を結ばせる「反射光学系」は、焦点距離を理屈上半分程度に縮める事ができます。そして、そのメリットから主として焦点距離500mm以上の望遠レンズに各社で採用され「反射望遠レンズ」などとも表記されるのが本レンズを含めたレフレックスレンズ群になります。
前述した通りレンズ全長を短く全体を小型化できる以外にも、大口径のレンズが光学系に存在しない為に軽量化・低価格化できる点、主光学系が光を屈折させない為に色収差の発生が少ないといったメリットがあるため、AF化される前のフイルム時代はカメラメーカー・レンズメーカーには必ずと言えるほど500mmのレフレックスレンズが商品化されていました。中には1000mmや1600・2000mmという超長焦点距離のレンズを有するメーカーや、小型化の恩恵をあまり得られない250mmや350mmといったレンズにまでレフレックス方式を採用したり、ズーム化を果たした例などもありました。半面、絞り調整の機構を持てずf値が固定である点(しかも500mmレンズでf8と決して明るくない)や副鏡の存在がボケ像を大きく乱す(光源がドーナツ状に写る通称リングボケ)といった欠点の存在から、どちらかと言えば「特殊レンズ」として扱われることも多いのが実際のところだったと感じています。
そして、フイルム時代MINOLTAα7000の発売以降、一眼レフカメラに一挙にオートフォーカス化の波が押し寄せつつも、AF化が遅れていたレフレックスレンズでしたが、光学設計の最適化と第二世代となるα7700iに搭載された多点測距センサーの恩恵を受ける形でAF化を果たしたのが、本レンズMINOLTA AF REFERX 500mm f8となります。プラスチック外装の採用によって小型軽量化に一層の磨きをかけ、手振れ補正機構が実用化されていなかった当時は、AF化でピント合わせの負担も軽減された事で「手持ちでもいける超望遠」として唯一無二の魅力を放っていました。無論他社のAFシステムも徐々に測距点の多点化へと進化を果たしますが、結果としてAF化された35mmフルサイズ用のレフレックスレンズは当レンズ1機種(APSフイルム規格のVECTIS用に400mmのミラーレンズが存在していました)だったのはなんとも残念な話です。以降デジタル化したAマウントのSONY製α用レンズとしても存在を続けたのは意外とも感じましたが、AF一眼システムの先駆者としての意地とプライドがしっかりと引き継がれた事の証明だったのかもしれません。
本レンズをLA-EA5を併用しミラーレス機α7RⅣでの撮影する際は、AFでの撮影も勿論可能ではありますが、やはり反射光学系という特殊性や解放f値が8と暗い影響もあってか、残念ながら「小気味よいAF利用による撮影」とは行かない様です。うす暗い状態では全く被写体を捉えてくれない事も稀ではありませんし、上手くAFが作動したとしても、被写体を「捉える」と言うよりはじりじりと「探り当てる」かの様なレンズ挙動になんだか懐かしさも感じてしまいます。結果、像を拡大した上でのMF撮影の方が随分とストレスフリーだったりするので、これなら他社のMFミラーレンズを使っても同じなのでは・・・・と思う事も。MINOLTA製レンズであってもEXIF情報にレンズ名が記載されるというLA-EA5併用のメリットはあるのですけどね。ちなみにSONYのHPによると、本レンズは最新(後?)のSONYバージョンでもレンズ補正に関する情報はありませんので、Lightroomでもプロフファイルを利用したデジタル補正は本MINOLTA同様アクティブにはならないかと思われます。元より色収差をはじめとして収差が少なく、デジタル補正の必然性はあまり無いタイプのレンズなのかもしれません。SONY版は中古市場ではあまり見かけないレンズですが、使用する機会があったら是非検証してみたいものです。
レフレックスレンズの欠点としてボケ像の乱れは有名ですが、光源がドーナツ状に描写される「リングボケ」はそれを期待して利用する場面も存在しますし、その為にこそ本レンズを入手する動機にもなったりします。木漏れ日を反射する路面のイチョウの葉が、あたかもイルミネーションの様な演出で描かれました。さしずめ被写体のパイロンは、クリスマスに肩を寄せ合う恋人の様です。
ちょっと言い過ぎですかね。
ちなみにリングボケだけを求めるのであれば、保護フィルターの中央に丸く切り抜いた黒紙を両面テープで貼り付けるという力技もあったり。(自己責任でどうぞ)
シャープネスは低くはありませんが、500mmのレンズの被写界深度は浅く、合焦面の前後のボケ像がやや乱れる為にピント自体が甘く感じてしまう事もあるようです。微妙なピント位置の違いが全体のイメージを変える事もあるようで、なかなか使いこなすのは難しいなと感じました。
思っていたよりも周辺光量がしっかり落ちて、雰囲気のある写真に仕上がりました。被写体がカラスだったこともあり、一部のハイライトを除いてがっつりダークになるよう露出をコントロール。そこそこの遠景でしたが、ボケの乱れとは無縁な青空が背景だとレフレックスレンズのクセは感じられません。
薄暗い竹林での撮影です。他のレンズよりも像のコントラストが低いのか、AFはまったく役に立たず前後に行ったり来たり。あきらめてMF撮影に切り替えましたが、ピントリングがレンズ前方にあるため操作バランスは今一つです。過去のレフレックスレンズのような幅広のピントリングがあれば操作性は格段に上がりそうなので、ミラーレスバージョンが発売されるなら是非とも搭載して欲しいものです。
硬質な物体で、特徴あるボケを逆に生かしてみようと被写体をチョイス。屋内駐車場に整列した自動車を選択。学生時代に鉄道写真を撮影する為にReflex Nikkorを借用した事を思い出しました。あの時は架線柱の乱れたボケ像に手を焼いた記憶がありますが、それは私の付き合い方に工夫が無かっただけなのかも。
西日を浴びた自動販売機が美しく輝いていたので一枚。遠景の被写体では被写界深度を稼げるので、目立った癖は感じずシャープな印象に。強い光線を反射した金属部のエッジにも妙な色づきを認めないのは、やはり反射光学系の特徴である色収差の少なさが効いているのでしょうか。
合焦部との距離が開けばボケ像の乱れも緩やかに感じます。浅い被写界深度ですがかろうじてベンチの質感は表現されているのかと。屈折光学系の500mmレンズ、最近では随分と小型化された物も存在しますが、まだまだレフレックスにはかないません。人目をはばからずに超望遠によるスナップが撮影できるのは、他人のカメラに過敏に反応する現代では本レンズの新しいメリットになるかもしれないのです。
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