M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO
いわゆる標準画角を持つ焦点距離のレンズ(35ミリフルサイズにおいては50㎜付近)は、歴史的に見ても各メーカーの「最も明るいレンズ」が存在するケースがほとんどで、ライカのノクチルックスや、キヤノン7用のf0.95、ニコンSマウントのf1.1など、レンジファインダー機が主流だった時代から、そのメーカーを代表するレンズが存在しています。また、登場時いずれも高額で販売本数も決して多くなかったこともあり、現在ではその多くがプレミア価格で取引されるのが常です。無論、メーカーは中古相場の高騰などに興味は無いのでしょうが、現在でもその傾向は色濃く残っています。ニコンにおいてはFマウントの口径に起因する制限によって、長年f1.0以上の明るさを持つレンズが開発できなかったとがある種トラウマだったようで、大口径の新生Zマウントでは、開発発表と同時に解放f値を0.95とする58㎜レンズの発売がアナウンスされたのがとても印象的だったのを記憶していいます。(注:売価は100万円を超えてきましたが・・・)
御多分に漏れず解放f値を1.2とする本レンズも、オリンパスが発売するM4/3フォーマット用に用意されたレンズ中で最高の明るさを誇りますが、レンズ構成枚数19枚、メーカー小売価格165,000円と、実に「標準」らしからぬ佇まいを見せます。しかしながらフィルター径62㎜・重量420グラムと、小型センサー機の特徴を生かした非常にハンドリングの良いレンズになります。名称にPROを掲げるだけあって、描写性能も「標準」以上で、f1.2の解放から非常に切れのよい合焦部と、その前後になだらかに、そして美しく広がる極上のボケを見せます。ボケ味は実体のエッジ部を距離ごとに徐々に滲ませて行くタイプで、前後のボケ方に差が少ないので、極めて自然に合焦部が引き立てられます。同社からは解放をf1.8とした25mmレンズも発売され、こちらも相当に質の高い描写をしてくれますが、この約1絞り分の明るさと定価ベースで10万円以上の差を惜しむ理由が当方には見当たりませんでした。(差額を捻出できる根拠も見当たらなかったのですが・・・・・・)勤務先に入荷したものを借用してテスト撮影をしましたが、結局在庫棚に戻ることは無く、我が家の防湿庫を住処としてしまいました。オリンパスには17㎜と45㎜にもf1.2のPROレンズがラインナップされていますが、懐を直撃するので暫くは入荷しないでほしいと願っております。
25mmとはいえ、やはり解放付近では被写界深度激薄です。特筆するべきは合焦部からなだらかに始まる美しいボケ。収差の加減によっては汚く見えそうなワンピースの細かい柄ですが、とても自然に溶けています。眉毛一本までしっかりと解像する合焦部、手の丸さ、柔らかさを見事に表現する質感描写。なだらかで少しの嫌味もないボケ味。ポートレートレンズとして文句の付け所がありません。
意地悪に造花を前ボケとして入れてみました。後ボケが綺麗なレンズには、前ボケに硬さが残る物も多く存在しますが、本レンズは前ボケの描写も見事。それにしても合焦部のシャープネスには脱帽します。オリジナルデータでは瞳に映り込んだステンドグラスまでもしっかりと描写されています。最近はあまり人物の撮影をする機会は多くないのですが、こんなレンズを手にしてしまうと、ポートレートを撮りまくっていた高校時代に戻りたくなってしまいます。
【モデルは地元「エトワールモデルエージェンシィ」所属の「ともか」さんでした】
こういったスナップに最適な標準画角。目に入った物を素直にフレーミングできます。とても暗い室内だったのですが、f1.2という明るさは最大の武器。「明るいレンズ=大きく重いレンズ」はマイクロフォーサーズでは気にならないレベル。写真が上手くなったと、勘違いさせてくれる「有能」なレンズです。
テストで借用した際にこの絵が撮れてしまったので、結局はそのまま購入となりました。解放でこのピント+自然なボケ方は、もはや異常と呼べるレベル。
これも、おそらくはこのレンズでなければ撮れなかった絵。路地裏に咲いた小さな花を撮影した一枚が、ここ最近で一番のお気に入りとなりました。
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