ASAHI PENTAX Super-Takumar 50mm f1.4
「オールドレンズありますか?」
中古カメラ店で、にわかに耳にするようになった比較的若いお客様からの要望。あまりに漠然としていますから、「古いレンズでしたら色々とありますが、メーカーや焦点距離はどういった物が希望ですか?」と問いかけると「カメラの事はわからないんですが、こういうの撮れるヤツです」とスマートフォンを取り出します。そこには、インスタグラムやTwitter等のSNSにアップされた、「ちょっと解像力が不足したモノクロの風景」や、「激しく口径食を伴い渦を巻いたような見苦しいボケとともに写されたアンニュイな表情の少女のポートレート」、また「カラーバランスが著しく狂い、加えて粒子感がやたら際立ったセルフィー」(個人の感想です)などが並んでいます。
デジタル技術の驚異的な進歩により、昨今では映像を高い精度で正確に記録する事ができる機器を誰もが当たり前に手にするようになりましたが、どうやら反面「正確に写る」事よりも「写り過ぎない」独特の個性を持った描写に惹きつけられる写真ファンが誕生しているようなのです。検索サイトに調べたい語句を入力すれば、たちまちに正しい答えが手に入る時代だからこそ、彼らには「曖昧な結果」や、「読み切れない行間」、「予想と違う反応」、そういった物が新鮮で魅力的であり、むしろそこに真のリアリティーを感じているのかもしれません。
一方で、ミラーレス一眼の普及により、近年はマウントアダプターを介してフイルム時代の膨大なレンズが簡単に楽しめるようになりました。そして、上記のような理由が全てとは言えませんが、現代のレンズに比べ、その描写に独特の個性を持つ個体が少なくないオールドレンズは「独自の映像表現」を求める層に爆発的に広まっていったのです。中でも国産オールドレンズの雄、PENTAX製のスクリューマウント(通称M42マウント)レンズは、販売当時庶民の一眼レフとしてカメラ王国日本の礎を築いた大ヒットカメラの交換レンズであったため、市場に豊富に存在(結果として安価で販売)していた事や、ねじ込むだけの簡単な取り付け方法なので、マウントアダプターも多くの種類が製造されていた事など、「とりあえず試してみる」のに最適な環境が揃っていました。その結果多くのオールドレンズファンの目に留まる事となり、中古カメラ屋視点から見ても「異例」なほどの人気商品となりました。これまでは、光学素材の経年劣化、カビの発生、グリスの劣化などがあれば即「ジャンク品」のレッテルが貼られた「タクマー」の標準レンズが、堂々とネットオークションの花型商材となっているのですから、驚きを隠せません。
流行だからといって、鼻で笑ってしまえばそれまでです。そのままでは「今の若い者は・・・」といったジェネレーションギャップに埋もれてしまいそうな「オールドレンズ」の魅力とはいったいどんな物なのでしょう。私より少し先輩の「Super-Taumar」の描写、マウントアダプターを介した最新のミラーレスでその実力を拝見して見たいと思います。
マイクロフォーサーズでは35㎜フイルム用の50㎜レンズは、フルサイズ換算で100㎜の中望遠レンズの画角となります。最短撮影距離は45センチですので、これはちょっとしたマクロレンズ。レンズの描写性能は中央部から周辺にかけて低下をするのが一般的ですから、結果として中央部を切り取る使用法となる4/3センサーでは、解放絞りとはいえ十分に解像感の高い描写となります。拡大すると、光沢分部に微妙なハロ見えますが、それがかえって使い古された金属の鈍い輝きを巧みに描いてくれます。
古いモノはオールドレンズで。正規の役目を終えて久しい電気機関車のナンバープレート。これが実際に走行していたのを撮影したのは自分が小学生の頃。展示館に安置されている姿を再び撮影するようになるとは、何とも不思議な感覚です。f4あたりまで絞ると、前述のハロは消え非常に端正な写りに。もともと性能は高いレンズですから、いわゆるオールドレンズ的ではなくなってしまいますね。
屋外では、光の強く当たった部分は若干滲みをともなう、いかにもオールドレンズらしい描写に。それでも妙な破綻は無く、歪曲も少ないのは優秀な設計の賜物でしょう。
初期の「Super-Takumar」には、放射能を持つ元素「トリウム」を含むガラスを使用していた物が存在します。もちろん、人体に影響を及ぼすほどの放射線は出していないとの事ですが、この素材は経年劣化で茶褐色に変質してしまうことが多く、入手した個体もかなり変色したガラスが光学系に存在していました。デジタルカメラではホワイトバランスの調整で影響を押さえ込むこともできますが、あえて日中5500ケルビンに固定して、アンバーに偏った発色を楽しんでみました。何とも言えないノスタルジーを感じる色です。これぞ、オールドレンズ。
シャープさと柔らかさが同居した素敵な描写ですね。被写体がマッチすれば、代えがたい魅力を放ちます。近年はブームに乗って、これらのレンズは中古相場が高騰しています。かつてどこの中古カメラ店にも必ずと言って存在していたM42のタクマー。今はちょっとしたレアアイテムの仲間入り。まぁ、もう少し時間がたてば・・・・ね。
同時に入手したマウントアダプターは、ヘリコイドを搭載し、中間リングの仕事もしてくれます。最短45センチをさらに割り込んだ接写ですが、性能の落ちる周辺を使用しないため十分な性能を発揮。やはり、金属部分の独特の光沢がいい味をだしています。劣化したHゴムや木製の窓枠などの質感も、とても味わい深く描写されています。
電子シャターを使用すると、超高速のシャッタースピードが利用できるため、なんとか屋外でも1.4という解放絞りを堪能することができました。しかし、解放の描写が面白いとやたらと絞りを開ける癖が出てしまいますので、オールドレンズを使うときはNDフィルターが必携ですね。
初めは、流行に乗ってちょっと作例を・・・なんて簡単に考えていましたが、この描写は捨てがたくなってしまいました。実はPENTAXのレンズで本格的に撮影したのは今回が初めて。もしかしたら、いけない沼に足を入れてしまったのかも。
ポートレート撮影に持ち出す機会があったので、久々のMFでポートレート。最近はG9の瞳認識に頼った撮影ばかりしていたのでちょっと心配でしたが、そこは昔取ったなんとやらでしょうか、ちゃんとピント合ってました(^^;;解放での微妙なハロが女性の優しい雰囲気をうまく引き立ててくれます。換算100㎜となる点もポートレートにジャストミート(古)でした。
ややアッパー気味に強めのレフを当て、アンニュイな表情で一枚。一枚一枚ピントを調整しながらの撮影は久々でしたが、適度な間と、オールドレンズならではの独特の柔らかな描写で、非常に心地よい撮影となりました。もちろん、モデルさんの技量に相当助けられましたが・・・
【モデルは地元「エトワールモデルエージェンシィ」所属の「ともか」さんでした】
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