LEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mm / F4.0-6.3 ASPH
フォーサーズ規格の小型センサーを搭載し、加えてミラーレス構造を採用したマイクロフォーサーズシステム最大の利点といえば、機材システム全体の小型化・軽量化が挙げられるでしょう。EVFや背面液晶といった表示用デバイスのサイズや品質、動画を含めた長時間撮影のためのバッテリーサイズの確保、また道具としての使い勝手やホールディングバランス等を考えると、カメラボディーサイズ自体の極端なダウンサイジングはナンセンスですから、その特徴は「レンズの小型・軽量化」にこそ現れると言えます。さらに、レンズの明るさの重要な要素である口径と、画角を左右する物理特性である「焦点距離」は、レンズそのもののサイズ・重量とある程度の比例関係にあるため、望遠レンズにおいてより顕著に表れることになります。
171.5mm・985gという全長・重量は他社製含めフルサイズミラーレス機用の70-200mmのf4クラスのレンズにほぼ近く、近似画角のレンズで比較すれば理論値通りのほぼ半分のサイズ・重量で製品化された本レンズは、2021年3月時点でパナソニック製のマイクロフォーサーズ用レンズ群最長の焦点距離である400mm(35mmフルサイズで800mm相当の画角)をライカお墨付きの品質で実現した「超望遠ズームレンズ」となります。フルサイズでの800mmとなれば、ハチゴローの愛称もある800mm・f5.6が有名ですが、高い設計技術と最新の軽量素材を用いたとしても全長450mm、重量で言えば4kg越えと、よほどの肉体派カメラマンであっても長時間の手持ち撮影は至難の業となりましょう。しかし本レンズは解放f値6.3と半絞りのハンデこそあれ、画角調整も可能なズームレンズとし、また手持ち撮影も十分可能な小型軽量化を果たしている為に「超」が付く望遠域の撮影を手軽に楽しめるマイクロフォーサーズの恩恵を最大限に生かした製品となっています。また、強力なボディー協調手振れ補正のおかげで、本来であれば被写体を画面内に留めて置くだけでも困難な手持ち撮影も、(多少の訓練は必要ですが・・・)難なくこなせますし、オートフォーカスも静穏・俊敏でストレスなく被写体を捕まえてくれますので、鉄道・野鳥・飛行機・レースなど高速で移動する遠景の被写体を捉える撮影では、代えがたい存在になるでしょう。無論、主題を切り取る風景写真などでも、極端に圧縮されたパースによる望遠効果が生む独特の描写は表現の幅を広げ、スマートフォン等では代替不能な(将来はわかりませんケド)映像を提供してくれるでしょう。
描写特性は300mm程度までは切れ味・コントラス共に優秀で、ボケも比較的素直な印象があります。300mm付近からテレ端では若干のコントラストの低下と解像感の低下が見られ、また二線ボケ傾向がやや強めに感じられるボケ像となります。この特性に関しては、ネット上でも同意見が散見されますが、メーカー公表のMTF値は非常に優秀ですので、超望遠効果による大気圧縮の影響や、微細なブレ、試用した個体の経年変化や個体差の影響も加味して考えないといけないのでしょう。(可能であれば別個体を試用する機会を設け、追記したいと考えます)また、引き出し式の内蔵フードは無いよりマシ程度の残念仕様のため、別途用意されるエクステンションフードはあった方がいいでしょう。取り外しができる三脚座が標準で付属しますが、造形が鋭利であるため、手持ち撮影時は「取り外し推奨」と言わざるを得ないほど、肌に食い込むドS仕様なので注意が必要です。(掌に三脚座を載せたい派の方は手の皮を鍛えるか手袋必須)また、初期の製造ロットではズーム作動が渋いと感じる個体もあったようですが、現在この辺りは改善されているという記述も見かけました。(レンズ先端を持って直進ズームとして使えば問題ないという猛者もいらっしゃいましたが)
試用後は欠点の存在を感じる感想を得つつも、何物にも代えがたいスペックと超望遠効果による独特の描写、小型のカメラバックに十分収まるミニマムな外観など、それらを補って余りある特徴を持った本レンズ。被写体と使い方によっては、龍にも馬にもなれるポテンシャルを秘めた飛び道具として、養子に迎える日も遠くないのかもしれません。
夕陽に照らされた廃機関車。望遠効果により圧縮された遠近感描写に、この車体が刻んだ歴史も同時に凝縮されているかの様です。100~200㎜付近の描写は先鋭度・質感描写ともに非常に満足度が高いものになります。
足尾銅山のシンボル遺構、旧精錬所の大煙突。空のトーンを出したかったので露出をかなり切り詰めましたが、風雨にさらされ劣化した煙突表面の微細な凹凸をトーン豊かに描き出します。
冬場にこの場所を訪れると、必ず「その者蒼き衣を纏いて、云々」という「あの一説」が頭に浮かびます。川の対岸に広がる枯野ですが、非常に繊細な描写が何ともいえないノスタルジーを誘います。
テレ端の映像。合焦部のピントのエッジはまずまずでしょうか。前後のボケに特徴的な癖がでてきますので、被写体によっては向き不向きを感じるかもしれません。ニコンの500㎜反射望遠レンズで得られた映像にも似た傾向があったと記憶します。それにしても、フルサイズ800㎜相当となる画角では、ファインダーを覗くまで一体どんな映像になるのか想像するのが難しく、同時にあまりに肉眼とかけ離れた遠近感の圧縮描写に何度も驚かされます。そして、病みつきになります。
流行りの言葉で「オールドレンズ」ライクな写りとでも言えばよいのでしょうか?バキバキのカリカリではないテレ端の描写は、どこかほっこりとした印象を受けます。
逆光の影響もあったのか、やや眠たい映像となりました。天候はほぼ快晴でしたが、時折強風とともに粉雪が舞う中、圧縮効果によって空気中の雪が写り込んだ不思議な映像となりました。
本レンズでのワイド端100mm。先鋭度が非常に高いキレキレな描写です。ノーマル設定のいわゆるJPEG撮って出しですが、学生時代に愛用したエクタクロームE100VSを彷彿とさせる特徴的なブルーの発色を見せてくれました。
西日差し込む変電所の窓。映画のワンシーンの様な印象的な描写です。極端な光線状態でこういった描写を見せられると、所有欲を抑えるのが非常に困難になります。給付金、ワンスモア。
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