M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6
カメラをこの手に持って、すでに30年という時間を過ごしてきましたが、これまでOLYMPUSのレンズで写真を撮ったことはほとんどありませんでした。高校・大学と、もっとも写真に明け暮れた時間にそのユーザーが周りに少なかった事もありますが、小振りなボディーデザインが、無骨なNikonに慣れ親しんだ私の手には少々なじまなかったというのが本当の理由だったのかもしれません。
さて、現在のOLYMPUSといえば、往年の銘機「PEN」シリーズをデジタルカメラとして復活させたマイクロフォーサーズ陣営の一角として、人気を二分するPanasonicとともに多くのレンズをラインナップしています。面白いことに標準系ズームレンズである14-45(42)mm以外は、双方に同一スペックのレンズが存在しないので、その事がレンズを選ぶ我々にとっては楽しみでもあり、また悩みの種ともなっています。
実際、マイクロフォーサーズシステムの超広角レンズを購入する際は、Panasonic製の7-14mmとどちらにするか、かなりの時間悩みました。結果として2ミリ短い焦点距離とズームによってf値の可変しない点を重視して7-14mmを購入したのですが、今回試用した9-18mmの描写は、スペック上の小さな差には決して現れない確固たる個性を備えており、再び購入候補のレンズに上がってしまいました。
広角側の焦点距離2ミリ分の譲歩とf値を可変方式としたことにより、本レンズは非常に小型・軽量となり、格納時の沈胴機構を作動させると標準ズームである14-42とほとんど変わらない外観になります。AF作動も非常に静穏かつ機敏で、レンズ前面に保護フィルターが装着可能な点からも広角スナップシューターとして存分に機動力を発揮してくれるでしょう。結像性能もズームレンズであることを忘れさせるほどで、画像エンジンとの連携でシステムとして描写力を高められるデジタル一眼の強みを感じることができます。絞りによる画質の変化も緩やかで、解放での素直な描写が、絞り込んでもあまり堅くならずに維持されます。極端なシャープネスの誇張が無く、質感の描写にも優れた本レンズは、解像度重視で画面に緊張感が走る7-14mmと比較して、広角域でのポートレートなどにも好適かもしれません。単純な比較はできませんが、あえて7-14mmを新世代のズミクロンとたとえるなら、9-18mmの写りは往年のズマロンを思い起こさせる、そんな所があるような気がします。
あまりに小型で取り回しが簡便なために超広角レンズであることを忘れると、うっかり自身の指を写し込んでしまいます。別売りで定価5,000円と高価ではありますが、レンズフードは必携アイテムとなりそうです。
日常の風景を一瞬で異世界へと変えてくれる超広角レンズ。その強烈な遠近感描写と肉眼を遥かに超えた広い画角は、写真ならではの独特の表現を与えてくれます。使い慣れないと癖ばかりが目立ってしまいますが、水平・垂直に気を付ければ案外自然な描写もしてくれるものです。
広い画角を利用すれば、頭上を広く覆う空・雲・太陽を美しく捉えてくれます。何気なく見上げた空ですが、同じ風景は二度と撮影することはできないのですから、写真って本当に不思議ですね。ポケットにも入ってしまう超小型といって言いレンズですから、いつでも持ち歩いてそんな二度とない瞬間の記録に備えられます。
9-18㎜という焦点距離は35ミリサイズでの画角に換算すると18-36㎜相当となります。数字の上では僅かな差ですが、画角は強烈に変化します。比較的自然な描写をする18㎜側から非現実的な描写をする9㎜。この変化を標準ズームレンズ同等の大きさのレンズで実現していることに、このレンズの本当の存在意義が隠れています。
焦点距離が非常に短いレンズですから、屋外では簡単に深い被写界深度を利用したパンフォーカス撮影が可能です。パナソニックの7-14はカミソリでそぎ落としたような鋭利なピント面を見せますが、本レンズはどちらかといえば合焦部を彫刻刀で削りだして行くようなイメージでしょうか。許されるならばどちらも所有しイメージに合わせて使い分けをしたいものです。
コーティングも新しいレンズらしく優秀です。逆光でも濁りの無い発色。ゴースト・フレアの類も通常の撮影では問題にはなりません。歪曲収差もデジタル補正の恩恵で気になるケースは稀でしょう。これほどの超広角ズームレンズを手のひらサイズで入手できるのですから良い時代になったものです。
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