Leica DG VARIO-ELMARIT 12-60mmf2.8-4.0 ASPH
長年カメラ店に勤務していますが、初めてカメラを購入するというお客様に「単焦点レンズ」をセットでお勧めすることは現在ではほとんどありません。基本的に多くのお客様がカメラを購入する際には、様々な被写体・シチュエーションでの撮影を希望しており、画角を連続的に変化させられるズームレンズがその目的に合致しているというのがもっともな理由ですが、メーカーがボディーとセット販売されることを想定して製造している「キットレンズ」はどれも、小型・軽量・安価の三拍子で、描写性能も決して低くない為に誰にでも安心して勧められるというのも理由の一つです。
ところが、自分自身でズームレンズを購入するケースは極めて稀であると言わざるを得ません。高性能なズームレンズが身近になった昨今であっても、解放f値や、描写性能においてはまだ単焦点レンズが一枚上手と感じる場面が少なくなく、自分の撮影スタイルでは小型・軽量な単焦点レンズを数本持ち歩いた方が、結果として荷物が少なくなる事が実際多いものなのです。また、ズームを購入する積極的理由が見当たらない事にプラスして、「○○㎜のレンズで撮った」という自分にとって撮影上の重要な分部が曖昧になってしまうのが、どうにも「嫌」なのです。どんな道具を使用しても結果としての写真が良ければ、それで良いはずなのですがどうにも困った性分です。
しかし、実際問題「依頼された撮影」ともなれば、そうも言ってはいられません。レンズ交換に割く時間でシャッターチャンスを逃す訳にはいきませんし、決められた足場から様々な画角での映像を記録しなければなりません。フレーミングを変えるためにその都度移動しているカメラマンなんて周囲には一人もいないのですから、ここは好き嫌いなどと言ってはいられません。
幸いなことに、数社が共通のマウントを利用するマイクロフォーサーズには多種多様な標準ズームレンズが存在しています。低価格の普及クラスから、携帯性を考慮した沈胴タイプ、描写性能を高めたプレミアムモデルなど、10を超えるレンズが選択肢に上がります。その中で選んだのが本レンズとなります。フイルム時代にやはり仕事で使っていたNikkorの24-120㎜と画角が同じである点、メインボディーとの協調で高い手振れ補正機構を利用できる点、ワイド端での解放f値が2.8と実用的である点、スペックからすれば非常に軽量である点など、その理由は多岐に渡りますが、やはり決定的だったのは過去に手にしたPanasonic-LeicaによるDGシリーズの描写性能に惚れ込んでいたという点が大きかったでしょう。
最新のレンズらしく、どの焦点域でも非常に満足度の高い描写性能を発揮。単焦点レンズにあるような固有の特徴こそ感じませんが、それこそが「標準ズームレンズ」としての存在意義と受け取れるほど曖昧さのない画質を提供してくれます。5倍と昨今のズームレンズからすれば、決して大きい倍率ではありませんが、画角変化は非常に大きく、日常の撮影であればこれ1本で事足りるでしょう。細かい被写体ではボケの硬さを感じる場面もありますが、ズームレンズである事を考えれば十分合格点を付けられます。ズームリングやピントリング、フードや切り替えスイッチなどの作りこみも手を抜かずにされており、プレミアムレンズの名に恥じる点は感じられません。薄型の入門機ボディーとはやや不釣り合いですが、大型のグリップを持ったボディーとのマッチングは最高で、フットワークの良い撮影を可能にしてくれます。あえて苦言を呈するとすれば、標準添付のフロントレンズキャップが商品として販売されておらず、消耗部品として取り寄せると案外「高額」な点です。レンズ本体も安価な部類ではありませんが、無くした月の昼定食には、「みそ汁」を付けられなくのでサラリーマン諸氏はご注意あれ。
安易にズームになじんでしまうと、移動することをせずにズームリングだけでフレーミングをしてしまい、被写体との対峙に積極性がなくなってしまう恐れがあります。動き回りながら、被写体との距離や角度を変化させることで新たな一面を発見することが撮影の醍醐味の一つですから、性能が高いからと言って、このレンズに頼り過ぎないよう少し自分を戒めています。もし、自分が写真を始めた時にこれほどのレンズを最初に所有してしまっていたら、ここまで写真にのめりこんでいなかったかもしれないと・・・。
撮影が主目的でなければ、最近はカメラに本レンズだけ付けておでかけ。それで事が足ります。発色・質感描写、解像感、少し前ならズームレンズでは得られなかった映像が簡単に手に入ります。AF動作も非常に俊敏。シャッターボタンに軽く触れればすでに合焦済み。カメラマンの苦労は減る一方です。
周辺まで破綻をみせない端正な絵作りは見事。絞りすぎによる回折に気を付ければ、簡単にパンフォーカス的な撮影ができる小型センサー機は日常の記録に最適です。
タイルの目が細かくなる遠景の分部もきっちり解像しています。なんとなく写っていればいい、といった曖昧さは微塵も感じられません。「標準」ズームレンズの仕事は決して簡単ではありませんが、完璧にこなしていいます。
デジタル補正の効果もありますが、歪曲収差はきっちり補正されています。薄曇りではありますが、完全逆光で、太陽光はかなり強烈な状況でした。嫌味なコントラストの低下もなく逆光性能も優秀です。
とろけるような「ボケ」ではありませんが、印象は決して悪くないボケ味。リアリティーを求められる記録的な撮影には、これくらいの固さがむしろ好都合かと。
ワイド端のフルサイズ24㎜相当の画角は、個人的に好きな広さ。超広角臭さを感じないギリギリの広さ。これも意地悪な逆光ですが、ゴースト・フレアの発生は感じられません。空にカメラを向けるとどうしてもワイドレンズでは太陽がフレームの中に入りやすくなりますが、安心して望めます。
遠景の為分かりにくいのですが、写真の中に旅客機が2機写っています。拡大すると主翼に取り付けられたエンジンや尾翼の形状まではっきりと写しこまれています。あきれるほどの解像度。シャープなレンズが多いパナソニック製のDGシリーズですが、ズームでもその特徴が良く出ています。
望遠端フルサイズ換算で120㎜は、ちょっとした望遠レンズです。電球一灯の明かり。解放f4の状態で1/15秒のシャッター。セオリーからすれば1/125秒が安全圏のシャッタースピードとなりますが、公称値以内とはいえ手持ち1/15秒で撮影した5カットすべてにブレが確認されないのは、驚きしかありません。
標準ズームには「マクロ」的な撮影も必須。もともと近接能力が高い小型センサー機ではありますが、簡単な接写ならご覧の通り。決してオマケ的マクロではありません。どうですか?この質感。
コメント