CONTAX Distagon 35mm f1.4 MM-J
フィルムでの撮影がメインだった頃にもしレンズを一本だけ持って行くのだったら、そんな質問をされたなら、迷わずこの35ミリを答えていたのでしょう。
f1.4の明るさは大抵のシチュエーションでの手持ち撮影を可能にし、ずば抜けた近接撮影時の能力は、簡単なマクロ撮影までこなします。開放付近では微妙な甘さを残した 合焦部分と、なだらかにつながるボケが人物を美しく捉え、f5.6まで絞ればレンズを交換したかのように素晴らしい色のノリとピントのキレを見せてくれます。フローティング機構の影響からか、撮影距離によっては若干背景のボケがうるさく感じられ る場面もありますが、そんな些細な欠点を補って余りある魅力を持つ、私にとっての万能レンズです。
開発当時疑問視されたと言われる非球面レンズの導入ですが、今日高級レンズだけにとどまらず、多くの写真用レンズに非球面が導入されていることから考えても、Zeissの設計理念が決して間違いではなかった事が証明されたと言えます。
常用携行レンズにするには、大柄の鏡筒と、ややもするとボディーよりも高額出費になりやすい価格設定は、決して万人にお勧めできるレンズとは言い難いのですが、デジタルが主流になり、中古相場が非常に下がっている今、Zeissの魅力を実感してみたい方は、まずこの一本をお使いになってはいかがでしょうか。
条件によっては後ボケに多少のクセを感じる事もありますが、近距離から合焦面のキレの良さは一級品。大きさ・重量からすれば普段使いとは言い難いレンズなのですが、長らく私の「標準レンズ」となりました。
逆光時の性能も高く、いじわるな条件下でもゴーストやフレアに困る事の少ないレンズでした。函館に旅行した際の一枚ですが、本レンズ、21mm・マクロ100mm・85mmのPlanar、そして予備のボディーと、なかなかのヘビー級機材でした。今ならちょっと躊躇う重さです。
標準レンズとして随時携行していましたので、街頭スナップにも重宝しました。MFではありましたが、f1.4の明るさはファインダーでのピント合わせがとても楽に行える為、小気味よく撮影が可能です。当時は同じ描写傾向を持ったf2クラスの小型レンズを望んでいましたが、結局はZFマウントの登場までお預けとなりました。
シャッタースピードが落ち込む状況でf1.4の明るさは大きな武器になります。咄嗟に感度を上げられないフイルムカメラにおいては、高い性能を維持したまま躊躇なく絞りを開けられる本レンズの存在は大きな保険になりました。
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