For M4/3 Mount (OMDS・OLYMPUS) Feed

M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 MACRO IS PRO

 OMデジタルソリューションズをネット上で検索する際、「オリンパス」と入力してしまう癖がなかなか抜けない筆者のようような世代の人間の頭の中には、オリンパス=マクロという図式がこびり付いている方も多いのかと想像します。理由として、内視鏡や顕微鏡といった医療機器で多くの功績を上げている事や、接写専用のレンズやベローズ、フラッシュといったアクセサリーが他社に比べ非常に多く用意されていた事はもちろんですが、90mm と50mm に存在した解放f値がf2のマクロレンズの存在も大きいでしょう。マクロレンズでは接写時の結像性能を重視する設計の為、現在でも多くのレンズでf2.8~4を解放絞りとするのがセオリーですし、「1絞りの重さ」が現在のデジタルカメラとは比べ物にならなかったフイルムの時代には、特別な存在として記憶されているのも当然です。付け加えるならデジタル一眼Eシリーズにも、フルサイズ画角で100mm相当となるマクロレンズにしっかりとZUIKO DIGITAL ED 50mm f2Macroを存在させていた点なども、強い印象となって記憶に残っています。

 ところで、これまでOMデジタルソリューションズのマイクロ4/3フォーマット用レンズラインナップには、オリンパス時代から引き継いだ30mm f3.5・60mm f2.8と2本のマクロレンズが商品化されていました。小型センサーの特性を生かし、いずれもフルサイズ換算で2倍という高い撮影倍率を誇りますが、それ以外には「光る何か」を感じられなかったのは否めません。マイクロ4/3フォーマットを愛用する自身も、マクロレンズ購入に際しては迷い無くDG MACRO ELMARIT 45mm F2.8を選択していた程ですし、前述した「オリンパス=マクロ」の図式はやはり過去の物だったのでしょうか。

 さて、同社から新規にリリースされた本マクロレンズ、汚名返上・名誉挽回などと言うと少々大げさですが、旧オリンパス時代を彷彿とさせる相当に尖ったスペックを引っ提げての登場となりました。フルサイズ換算で150~200mmの前後の画角を有するいわゆる望遠マクロレンズは、フイルム時代には比較的当たり前の存在だったのですが、ミラーレスデジタル専用としてカメラメーカーがリリースするのは初の製品となります。解放絞値はf3.5と一見すると凡庸ともとれるかもしれまんが、注目すべき点はそこではなく、マクロレンズにおいて重要な「撮影倍率」なのです。通常使用で等倍(フルサイズ換算で2倍)を達成している撮影倍率が、搭載されたS-MACROモードに設定することでなんと2倍(同4倍)となり、2倍のテレコンバーター併用時には脅威の4倍(同8倍)にも到達するのです。当然ながら、これまでもこれに類する高い倍率での撮影を可能とさせるアクセサリーは存在していましたが、レンズ単体でAF・AEそして手振れ補正の恩恵をうけられる環境でのスペックとなれば、これはもう別次元の話です。

 この篠沢教授もビックリの撮影倍率は、数字からも分かるように解剖顕微鏡にも匹敵するような接写時の拡大撮影を可能としますが、長焦点化によってもたらされた長いワーキングディスタンスと大きなボケ、伝家の宝刀でもある強力な手振れ補正や防滴構造を搭載することで、これまで取れなかった撮影スタイルや、新たな被写体への挑戦までも可能としてくれるでしょう。当然のことながらマクロレンズに要求される高い解像力を与えられたレンズではありますが、合焦面前後には美しく且つなだらかにつながって行くボケ像が描かれ、極端に浅い被写界深度下であっても癖の少ない上品な画像を提供してくれます。マクロレンズとは言えど、遠景の被写体であってもその解像感は失われず、汎用性の高い望遠レンズとしても十二分に活躍してくれるでしょう。18枚という贅沢な構成のレンズではありますが、手に取るとそのあまりの軽さに、解放f値を3.5と抑えたメリットを感じ取れます。マストバイというよりも、このレンズの為にマイクロ4/3システムを追加しても良い、そう思う方も少なくはないのではないでしょうか。「マクロ撮影にOMデジタル在り」ひょっとして我々ユーザー以上に喜んでいるのはメーカーサイドの方々なのかもしれませんね。

 

 

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熱帯植物特有の大きな葉。外光を取り入れた半逆光下で絞り解放描写をチェックしました。葉脈一本一本を鋭く描く中心部の解像度に文句のつけようはありません。ごく僅かに感じるハイライト部の滲みと、前後のなだらかなボケ像が良い感じです。

 

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木陰の小さな蕾を接写。少々高い位置に存在する被写体で45mmでは踏み台が必要な場面ですが、望遠マクロのメリットを存分に発揮できました。90mmでないと撮れない被写体もありますが、同様に45mmの画角も絶対必要なのです。焦点距離のバリエーションが増えると撮影できる被写体が増え有難いのですが、荷物の増加は避けられません。マイクロ4/3で良かったと思える瞬間です。

 

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45mmと比べやはりボケは大きくなります。結果どこにピントを置くかで写真の内容も変化をしますが、前後のボケ像に大きな偏りはないので、必要以上に神経質にはならなくて良いみたいですね。

 

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解像度の高いマクロレンズには、ボケも硬くなる個体も存在しますが、本レンズは前後にとても柔らかいボケ像を形成してくれます。大胆に前ボケを使ったフレーミングも嫌みな癖が発生せずに安心して取り組めます。

 

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植物園で花の撮影時、左手首に違和感を感じさせた犯人は「蝶」でした。しきりと口のストローを伸ばして私の手首から「何か」を吸っていました(笑)。手振れ補正と軽量なレンズの特徴を生かし、片手でも難なく撮影ができました。ずいぶん昔に曲がり角を過ぎた私のお肌と、すこしくたびれた感じの蝶の羽根が奇跡のコラボを演じでくれました。

 

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昆虫にも詳しくはないので・・・。バッタやキリギリスの一種かと思いますが、バラにとまったこの一匹、その大きさは小指の爪ほどです。小さな被写体ですがマクロレンズを通して撮影することで、改めてその緻密な造形に驚きます。被写界深度が極端に浅くなるため、手持ち撮影ではピント面の維持が困難です。秒間10コマ以上の高速連写で数十枚を撮影したうちの一コマですが、価格高騰が続くフイルムでは簡単に(私の懐事情では)真似ができない撮影法ですね。そもそもモーターの音で逃げちゃうかもしれないですしね。

 

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メインは蕾、背景は咲いたバラの花です。溶けるという表現が似合う望遠レンズならではの大きなボケを生かした撮影法でしょうか。やはり浅い被写界深度のため、ピント位置には神経を使います。使う絞りによる被写界深度とボケの大きさを相談しながらの試行錯誤が必須ですね。

  

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夕飯の買い出しに出向いたスーパーの駐車場。キリスト教会堂の方向に丁度日没を控えた太陽が。雲の様子や太陽の位置が刻々と変化をしますが、超逆光下(良い子【一眼レフ】は真似しないでくださいね)でも安定した描写力には驚きました。構成枚数の多いレンズですが、この条件下でもゴースト・フレアは最小限。遠景でも優秀な結像性能を見せてくれます。

 

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

 デジタルカメラが自身の機材の中心を占め、その圧倒的な利便性に随分と助けられていると感じる事が多いと思う昨今ではありますが、デジタルカメラの登場以来、なかなかに解決されない問題というものも存在しています。特に、実際その問題に遭遇したことがある方も決して少なくないであろう「ゴミの写り込み問題」は、写り込んだゴミの小ささに反比例して作品や作者に大きなダメージを与える事もあるので、とても厄介な問題となります。

 フイルム撮影の場合では、その表面に何かしらのゴミが付着したとしても、フイルムは一コマ毎に次々と送られますから、写り込みの影響はそのゴミの付着した一コマ限定で済む事がほとんどです。(例外もありますが)しかし、デジタルの場合は、撮像素子の表面(カバーガラスやローパスフィルーターなども含め)にゴミが付着した際、そのゴミを取り除かない限りは、以降全ての撮影画像にゴミが写り込んでしまうという深刻な事態に発展してしまいます。

 勿論、カメラメーカーもこの「ゴミ問題」を放置している訳ではなく、近年では殆どの機種で、センサーやカバーガラスのゴミを振り落としたり、ゴミの侵入を防ぐ構造を持たせたりといった対策を講じています。しかしそれでも、我々の生活環境はクリーンルームではないのですから、カメラ内へのゴミ侵入を完全に遮断する事はできませんし、とりわけレンズマウント部は、ゴミ最大の侵入ゲートとなりますから、「私は一切レンズ交換をしません」と豪語するお客様にそれなりの頻度で遭遇するのもある種納得の行く話ではあります。

 そんな訳で、デジタル時代になってからは「携行時の荷物を減らす」以外にも、「レンズ交換の頻度を下げてゴミの侵入を(ある程度)防ぐ」という新たな使命?を与えられたのが「高倍率標準ズームレンズ」なのではないかと思うのです。(長いプロローグですみません)12-100mm(35mmフルサイズ換算画角で24-200mm)という広角から望遠域までを一手に賄うM.ZUIKOの本レンズは、そのカバーする画角の広さに加え、解放f値を比較的明るめなf4とし、さらには防塵防滴構造や超強力な手振れ補正を装備し、描写性能も折り紙付きとなる「PRO」ラインの製品として販売されている点は特筆すべきでしょう。時として広角から望遠域までをカバーする高倍率ズームレンズは、画質面や解放f値の点で「それなり」と感じる事も多く、本気モードの「撮影」がメインとなる場面への投入にはどうしても本腰が入らないのが事実なのです。

 しかし、デジタル化移行当初から光学系のテレセントリック性に配慮し、小型センサー機のメリットを熟知してきたオリンパス(現OMDS)が放つ本レンズは、マイクロ4/3フォーマットの持つ強みを生かし、描写性能を犠牲にする事なく高倍率化を果たした標準ズームの決定版ともいえる性能を見せます。解放から完全に実用になる解像感、ズームレンズとは思えない癖の少ないボケ味は、多くの場面で納得のいく画像を提供してくれますし、とにかく強力な手振れ補正による圧倒的低速シャッターへの対応は、SNSなどで手持ち撮影の低速シャッター自慢を目にすることも多く、手持ち撮影の常識を覆したと評しても問題ないでしょう。実際、カメラホールディングに多少の心得があれば、1秒程度のスローシャッターでも望遠側で簡単にシャープな映像を手に入れることができます。近接能力もワイド時でレンズ前面から1.5cmと高く、よほどの事がなければマクロレンズの必要性も感じないかと思える程。欠点を挙げるとすれば、それは20万円を超えてしまうメーカー希望小売り価格くらいのものでしょうか。「ゴミ問題」への対応はともかく、本当にレンズ交換の必要性を感じる場面の少ない試用期間となりました。

 このレンズを買ってしまったら、当ブログの存在意義がなくなってしまいそうなので、断じて私個人は購入しないんですけどね・・・・・・・・・・・。

 

 

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ボケが小さくなりがちな小型センサー機ですが、100mmまである望遠があれば、そこそこ大きなボケを手に入れることができます。癖の非常に少ないボケ味と合焦部の高いシャープネスは、多くの場面で説得力の高い映像を与えてくれます。

 

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シャープネスが高いレンズが多いM4/3系の単焦点交換レンズと比べても見劣る点が少ないレンズかと思います。特に解放f値に必要性を感じない撮影であれば、本当にこれ一本で間に合ってしまいそうです。

 

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近接撮影でも「おまけ」的な妥協点は見いだせません。周辺まで丁寧な質感描写。気合いれて被写体と向き合えないと、平凡な写真を量産してしまいそうでちょっと怖かったりします。

 


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噴水用のプール内に設置されたイルミネーション用の電送ケーブルでしょうか。意識した訳ではないでしょうが、素敵な幾何学模様を形成していました。フルサイズ換算で200mmまでの望遠があれば、遠景をトリミングした撮影もレンズ交換なしで可能に。

 

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人物がブレていることからも低速シャッターなのはお分かりいただけるでしょう。1秒程度のスローシャッターであれば本レンズの手振れ補正は余裕で対応可能。高いISO感度に頼りたくない性格(フイルム時代の呪いなんですけどね)なので、この低速耐性は魅力です。

 

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逆光に近い状況ですが、コントラストの低下もない優秀な画質。「PRO」を冠するのは、様々な状況で欠点を見せることが少ない証。決して構成レンズの枚数は少なくはないのですが、そんな事は微塵も感じさせないクリアな描写です。

 

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広角側でも解像度は相当に高いレンズです。小さく、細かい被写体も繊細に描写。ガタイの良い望遠レンズ然とした大型のレンズ(M4/3にしては)ですが、広角レンズとしても無論優秀な一本になります。

 

M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS

 マイクロ4/3フォーマットのデジタルカメラをリリースするOMデジタルソリューションズ(旧オリンパス)とPanasonicの両雄からは、魚眼レンズから超望遠レンズまで、非常に多彩なレンズがリリースされています。仮に両社のレンズラインナップが双方ともに同じレンズで固められていたのならば、OMにはOMのレンズを、パナソニックにはパナソニックのレンズをセットしてしまえば事は足りてしまい、マウントが共通である事のメリットがあまり生かされなくなってしまいますが、両社のカタログを覗くと、標準ズームレンズなどの一部を除いて、焦点距離や解放f値が少しずつ違うラインナップとして展開されている事に気が付きます。無論多少の意思疎通があっての結果とは思いますが、我々は単純計算で2倍と膨らんだラインナップからレンズを選択できるという喜びがある一方で、毎回取捨選択を迫られるという悩み直面する事になります。

 実際、35mmフルサイズ画角で200-800mmという望遠~超望遠を一本でカバーする100-400mmのズームレンズにおいては、レンズ全長・口径ともに肥大化しやすい超望遠レンズであっても、フルサイズ用レンズ比で圧倒的に小型化されるというマイクロ4/3フォーマットならではのメリット発揮できるため、OMとパナソニック、二つのブランドから同一焦点距離ではありつつ、若干スペックに差異を持って商品が展開されています。無論、ボディーとブランドを合わせて購入してしまうのが「安牌」なのは分かりきってはいるのですが、隣の芝生が青く見えるのも世の常、人の業。悩める事もまた喜びとして、ここはしっかり悩んでみるのが吉でしょう。

 さて、野鳥、モータースポーツ、鉄道、航空機等、被写体への接近ができない、もしくは容易でない撮影において絶対的なアドバンテージを誇る本レンズは、近年進歩が目覚ましい手振れ補正機能のアシストを活かし、手持ちでの800mm画角での撮影をいとも簡単に可能とします。さすがに1/125秒以下のシャッターで全てのコマをブラさずに・・・とはいきませんが、EVF表示も安定しますのでいわゆる歩留まりの良い撮影を行えます。上位機種の高速連写を併用すれば正に鬼に金棒でしょう。さらに電子シャッター利用時はメカシャッター作動に伴う振動もなくなりますので、ローリングシャッター歪みが問題になりにくい被写体であれば積極的に活用したいものです。PROシリーズでのキレの良い(というかキレすぎる)画像を見慣れていても、遜色のない合焦面のキレは必要にして十二分で、1~2段程絞り込めばピクセル等倍で確認しても超望遠域での撮影を疑う程にシャープな結像をします。状況によって後ボケはやや硬めな印象も受けますが、もともとのボケが大きいですから気になる場面は少ないでしょう。100mm側での解放はf5と、Panasonic製100-400のf4より僅か控えめですが、どちらかと言えば400mm側が使用前提での購入候補となるレンズでしょうから、影響は少ないと言えます。PROシリーズの特徴でもある便利なフォーカスクラッチは未装備ですから、MFでピントを追い込みたいユーザーには減点かもしれませんが、描写性、携帯性、操作性どれをとっても高いレベルでまとまった秀作レンズと言って間違いないでしょう。

 そして何より一日持ち歩いても三脚座が手に食い込まないのが、Panasonic製100-400と比べて最大の利点だったかもしれません。(三脚は一度も使わなかったですケド) 

 

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半逆光でもクリアな描写です。最近のレンズのコーティングはほんと優秀ですよね。背景のボケは二線ボケの傾向があり硬めな印象ですが、この辺りはPanasonic製の100-400に似ています。

 

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斜光を浴びたTVアンテナ。小さな画像でも本レンズの高いシャープネスはしっかり伝わるかと。少し絞っただけでこの描写ですから、鉄道や航空機といった硬質な被写体と相性はきっといいのでしょうね。

 

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公園内の街灯をスナップ。ほぼテレ端の撮影です。拡大していくとフィラメントの影やポールの部品など、非常に細かい部分までしっかりと解像しているのが分かります。シャープネス至上とは言いませんが、被写体によっては仕上がりを左右する事があるのも事実です。

 

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前ボケは後ろに比べ柔らかい感じでしょうか。おそらく戦時下からの遺構ですが、立ち入りが出来ない為、超望遠での切り取りに挑戦。夕刻でかなり暗かったのですが、レンズの軽さと強力な手振れ補正に助けられました。

 

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水の描写からもシャッタースピードが決して速くない事はお分かりいただけると思います。夕刻・超望遠・手持ち撮影、フイルムの時代では考えられなかったシチュエーションでの撮影をいとも簡単にこなしてくれました。

 

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さすがの手振れ補正も被写体ブレは天敵です。超望遠域の撮影ではそよ風さえも難敵に。小刻みに高速連写をして「当り」のコマを射止めます。質感の表現も上々です。

 

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望遠レンズの「圧縮効果」を生かして撮影。近年は肖像権の問題で人物のスナップ撮影には色々と神経を使ったりもしますが、望遠レンズの浅い被写界深度と、コロナ禍でのマスク外出のおかげ?で、これなら「個人の特定」には当たらないでしょう。

 

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普段は広角レンズでこういった被写体を撮影することが多いのですが、今回は望遠レンズでチャレンジ。背景の枝をぼかして撮影しましたが、存外面白い画になりました。最近のスマホでは、背景のボケをデジタル処理で生成してしまいますが、それもそう遠くない未来には当たり前になってしまうんでしょうか?
 

 

M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO

 振り返ってみますと、自身と写真との関わりには幾度かの転機があったと実感しています。そして、その転機の原因には機材が絡んでくることも少なくありません。そんな経験をさせてくれた機材の一つに「単焦点中望遠レンズ」があります。およそ85~150mm前後の焦点距離(35ミリフルサイズセンサーにおける)と、f2よりも明るい解放値を与えられたこれらのレンズは、その光学的特性から遠近感の誇張によって被写体を過度に変形させる心配もなく、明るいf値を使う事による前後のボケは効果的に対象を浮かび上がらせてくれます。また、人物が被写体となれば、相手との距離が適度に取れる事で、会話や指示を出す際に余計なプレッシャー与えにくく、ライティングの自由度も上げ易いという利点も生み出します。 

 そんな理由から「ポートレートレンズ」と称される事も多いこの「単焦点中望遠レンズ」と、私との出会いは暗室ワークを始めとした本格的な創作活動を開始した高校時代に遡ります。当時師事していたカメラ店の店主に勧められ、後にのめり込んでいった人物撮影用に入手したのが「AF Nikkor 85mm f1.8」という「単焦点中望遠レンズ」です。それまでは、風景や日常のスナップ、部活動の記録などの為に広角や望遠域のズームレンズを多用した撮影が多かった為、単焦点中望遠レンズで撮影された写真には、まさに「目から鱗」が剥がれ落ちたかのような衝撃を受けました。人物を浮かび上がらせる大きなボケ、引き伸ばし用のピントルーぺ像に浮かんだ恐ろしいまでの解像感は、それまで「レンズを変えて変化するのは画角と遠近感だけ」と漠然と思っていた自分の感覚を一変させただけでなく、純真無垢な写真少年(当社比)を、ハンドルネームにレンズ名称を使い、レンズの描写をアテに一杯呷ってはブログの記事を書く、そんな大人に育ててしまったのです。

 さて、写真人生の一大転機とも言える出会いをもたらせたこの「単焦点中望遠レンズ」ですが、マイクロ4/3フォーマットデジタルカメラ用にも、各社から数種類が用意されています。オリンパスからリリースされているのは解放f値1.7と1.2、2本の45mmレンズと、少し焦点距離を伸ばした75mmf1.8の3本が当てはまるでしょうか。M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8は既に別項で取り扱っておりますので、45mmへ目を向けたいと思います。撒き餌レンズなどとも称され3本中最廉価となる15mm/1.7であっても十分な明るさを誇りますが、ひと絞り程度であっても「明るい方が好き」(あくまで予算が許すなら)な筆者としましては、やはりPROを冠する本レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO」へと食指が動きます。

 オリンパス純正レンズのラインナップでは、最も明るいレンズの一本となる本製品は、35ミリフルサイズカメラの90mm/1.2相当ですから、その小柄な外観には驚きすら覚えます。描写の実力は、すでに同ラインの25mmの体験から何の疑いも持ち合わせていませんでしたが、期待以上の映像に終始口角が上がりっぱなしでした。開放では非常に先鋭度が高いながらも、僅かに纏ったハロによって絶妙な柔らかさを演出。紗をかけたようにコントラストを僅かに控えた極上なボケが合焦部を一層引き立てます。1段ほど絞るだけでハロは消え、全体の解像感はさらに上がり、f2.8辺りからは被写体の実物を切り取ってきたかの様な瑞々しさに、ため息を漏らすほど。フォーカスクラッチも搭載していますから、f1.2のごく薄い被写界深度であってもMFで瞬時にピント修正ができるのも有難く、標準装備されるレンズフードも深さやロック方法に不満はありません。同画角のフルサイズ用レンズと比べれば1/3程度となる価格はもはやバーゲンプライス。近似焦点レンズのPanasonic製42.5mm/1.2と、どちらを入手すべきか、それが唯一の悩みの種となるでしょう。

 

 

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解放絞りでは独特の柔らかさを持った、まさにポートレートレンズ。それでも合焦部の解像感は悪くありません。絞ごとに描写の変化を楽しめるのは、明るいレンズの特権でしょう。

 

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こちらも解放。さすがにf1.2です。小型センサー機でもこのボケ量。ボケ像は本当に癖がないお手本のようです。

 

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雲のディテールを残すために、あえて露出を切り詰めます。小型センサー機ですので、f8程度まで絞れば中望遠とは思えないような被写界深度を手に入れられます。

 

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f2.8です。柔らかさを残しつつも極上のピントのキレ。性能の高いレンズを使うと、ちょっぴり上達したような気分に浸れます。

 

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ボケ像が非常に素直なので、こういった被写体も画面が騒がしくならずに済みます。

 

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明るい被写体が画面のウエイトを占めると、多分割測光とはいえカメラ任せの露出はアンダー側に転がります。しかしあえて無補正で。歴史を刻んだ車体の重厚感にはこのくらいのトーンが似合います。絞り込んだ時の隙のないシャープネスが被写体の魅力を高めてくれました。

 

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近接描写も優秀です。ボケの始まり方も非常に癖がなく、ピントのキレも文句がありません。

 

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一眼レフでは、ファインダーを覗くのがためらわれる(というか、危険な)被写体。自動で減光されるEVFならではの撮影でした。逆光耐性も十分で、思った以上にトーンが再現されました。

 

M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0

 現像の終わったモノクロフイルムを水洗浴から取り出した際、経験したことのない明らかな異質感を覚えたのは、職場の売り物をレンタルしたLeicaのM-Summilux35/1.4(球面)のテスト撮影の時でした。OLYMPUSがM4/3マウント向けに発売する広角単焦点レンズである12ミリ(35ミリフルサイズ換算で24ミリ相当の画角)の本レンズで撮影した画像をPCのモニターで確認した時、実はよく似た感覚を覚えました。的確に表現する言葉を上手く選択できずにいますが、このレンズは「何かが違う・・・」確かにそう感じたのです。

 デジタルカメラ用の最新レンズですから、当然ながら歪曲・色・等の収差はカメラ内で補正され、良好に施されたレンズコーティングと優れた光学素材の採用・設計によって、絞り開放から全画面に渡り非常に均整のとれた高解像度の画像を提供してくれます。しかし、その解像度・コントラストの高い描写と一転、中間調はとても豊かな階調をもち、ややもすると鑑賞者に緊張感を強いてしまう「いわゆる現代的な描写」とは無縁です。被写体をその広い画角とともに優しく包む包容力の様な物をこのレンズは持っているかのようです。

 写真を本格的に撮るようになって、最初に購入した広角レンズは24ミリでした。以来シグマ24/2.8・ニコンAi-s24/2・ニコンAF24/2.8D・コンタックスDistagon25/2.8・コシナZF25/2.8と数多くの近似焦点距離のレンズを愛用しましたが、本レンズはその中でも最高峰のお気に入りとなりました。描写性能だけでなく、金属鏡筒の美しい仕上げと、マニュアルフォーカス時の節度あるトルク感など、所有・使用に際する感覚にも細かく配慮が行き届き、可能であるなら一眼レフの光学ファインダーを透して撮影してみたいと、極めて矛盾に満ちた欲望に駆られる自分を発見するでしょう。

 入手以来、M4/3のシステムでの最少携行レンズは、本レンズ・Summilux25/1.4・Macro-Elmarit45/2.8となっています。気づけば残り2本はライカのネームとエッセンスを受け継いだパナソニックのレンズ。私が過去、Leicaの描写に感じた異質感への、この共感を裏付けているかのようです。

 そういえば・・・・この小型レンズにはやはり必携の、素晴らしい仕上げの純正レンズフードが存在していますが、価格もライカ純正品相当だったりするのは何かの偶然なのでしょうか?

 

  

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前述しましたが24ミリの画角は使用歴が長く、自分にとって「広角レンズ」の代表です。誇張されたパースとマイクロフォーサーズマウントでのより深い被写界深度を利用し、写真ならではの表現方法を。レンズ本体も非常に小型なので、スナップシューティングには最高の相棒となります。

 

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最新の設計レンズですが、コントラストが高すぎる事もなく、逆光でも中間調の豊かな描写を見せてくれます。どことなく古いライカレンズのテイストを感じる仕上がりが写欲を誘います。

 

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強い日差しを浴びる工事現場用の防音シートです。もっとガチガチな映像を想像していたのですが、ことのほかアッサリ描写。なんだか不思議なレンズです。

 

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日陰に入るとご覧の通り。ゆったり、まったりとなんともスローな写り。EVFをアングルファインダー的に使用すると、ローライの二眼レフで撮影しているかのような感覚にもなります。

 

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諧調が豊富なので、露出を思いっきり切り詰めてもシャドーにしっかり諧調が残ります。シャープネスも高く、デジタル補正の恩恵でディストーションも気にならないので、建築物の撮影にも好適かと。(画面が微妙に傾いいているのは私の不徳の至すところです・・・)

 

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日没後の日本海。130グラムと非常に小型・軽量なレンズですから、ボディー内臓の手振れ補正機構を生かせば、フイルム時代には三脚必須であった低速シャッターでも余裕で手持ち撮影が可能です。デジタルになって出番がめっきり減ったアクセサリーといえば「三脚」と「フラッシュ」ですね。

 

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12mmという焦点距離の為、ボケを生かして撮影することは多くはありませんが、前後のボケもご覧の通り。後ボケに若干の二線ボケが感じられますが広角レンズとしては優秀でしょう。マイクロフォーサーズの交換レンズは最短撮影距離が短いものも多く、0.2mとなる本レンズも例外ではありません。

 

M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO

 いわゆる標準画角を持つ焦点距離のレンズ(35ミリフルサイズにおいては50㎜付近)は、歴史的に見ても各メーカーの「最も明るいレンズ」が存在するケースがほとんどで、ライカのノクチルックスや、キヤノン7用のf0.95、ニコンSマウントのf1.1など、レンジファインダー機が主流だった時代から、そのメーカーを代表するレンズが存在しています。また、登場時いずれも高額で販売本数も決して多くなかったこともあり、現在ではその多くがプレミア価格で取引されるのが常です。無論、メーカーは中古相場の高騰などに興味は無いのでしょうが、現在でもその傾向は色濃く残っています。ニコンにおいてはFマウントの口径に起因する制限によって、長年f1.0以上の明るさを持つレンズが開発できなかったとがある種トラウマだったようで、大口径の新生Zマウントでは、開発発表と同時に解放f値を0.95とする58㎜レンズの発売がアナウンスされたのがとても印象的だったのを記憶していいます。(注:売価は100万円を超えてきましたが・・・)

 御多分に漏れず解放f値を1.2とする本レンズも、オリンパスが発売するM4/3フォーマット用に用意されたレンズ中で最高の明るさを誇りますが、レンズ構成枚数19枚、メーカー小売価格165,000円と、実に「標準」らしからぬ佇まいを見せます。しかしながらフィルター径62㎜・重量420グラムと、小型センサー機の特徴を生かした非常にハンドリングの良いレンズになります。名称にPROを掲げるだけあって、描写性能も「標準」以上で、f1.2の解放から非常に切れのよい合焦部と、その前後になだらかに、そして美しく広がる極上のボケを見せます。ボケ味は実体のエッジ部を距離ごとに徐々に滲ませて行くタイプで、前後のボケ方に差が少ないので、極めて自然に合焦部が引き立てられます。同社からは解放をf1.8とした25mmレンズも発売され、こちらも相当に質の高い描写をしてくれますが、この約1絞り分の明るさと定価ベースで10万円以上の差を惜しむ理由が当方には見当たりませんでした。(差額を捻出できる根拠も見当たらなかったのですが・・・・・・)勤務先に入荷したものを借用してテスト撮影をしましたが、結局在庫棚に戻ることは無く、我が家の防湿庫を住処としてしまいました。オリンパスには17㎜と45㎜にもf1.2のPROレンズがラインナップされていますが、懐を直撃するので暫くは入荷しないでほしいと願っております。

 

 

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25mmとはいえ、やはり解放付近では被写界深度激薄です。特筆するべきは合焦部からなだらかに始まる美しいボケ。収差の加減によっては汚く見えそうなワンピースの細かい柄ですが、とても自然に溶けています。眉毛一本までしっかりと解像する合焦部、手の丸さ、柔らかさを見事に表現する質感描写。なだらかで少しの嫌味もないボケ味。ポートレートレンズとして文句の付け所がありません。

 

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意地悪に造花を前ボケとして入れてみました。後ボケが綺麗なレンズには、前ボケに硬さが残る物も多く存在しますが、本レンズは前ボケの描写も見事。それにしても合焦部のシャープネスには脱帽します。オリジナルデータでは瞳に映り込んだステンドグラスまでもしっかりと描写されています。最近はあまり人物の撮影をする機会は多くないのですが、こんなレンズを手にしてしまうと、ポートレートを撮りまくっていた高校時代に戻りたくなってしまいます。

【モデルは地元「エトワールモデルエージェンシィ」所属の「ともか」さんでした】

 

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こういったスナップに最適な標準画角。目に入った物を素直にフレーミングできます。とても暗い室内だったのですが、f1.2という明るさは最大の武器。「明るいレンズ=大きく重いレンズ」はマイクロフォーサーズでは気にならないレベル。写真が上手くなったと、勘違いさせてくれる「有能」なレンズです。

 

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テストで借用した際にこの絵が撮れてしまったので、結局はそのまま購入となりました。解放でこのピント+自然なボケ方は、もはや異常と呼べるレベル。

 

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これも、おそらくはこのレンズでなければ撮れなかった絵。路地裏に咲いた小さな花を撮影した一枚が、ここ最近で一番のお気に入りとなりました。

 

 

M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8

 

 35mmフルサイズ換算で150mmの画角を持つ、異色の中望遠大口径レンズ。300mmの半分と考えればキリの良い数字ではありますが、実際は135mmと200mmという望遠レンズの代表選手に挟まれ、存在感の薄さは否めません。記憶を辿ればフイルム時代の純正ズームレンズや、現行品でも社外品に一部でその存在を確認できますが、単焦点レンズともなると、僅か数本が頭に浮かぶ程度ですから、その画角に馴染みがあるのは少数派なのかもしれません。

 実は私自身その少数派の一人で、生まれて初めて手にした望遠レンズ(ホントは父の所有物)が75-150mmf3.5というニコンのシリーズE(Nikkorという名称を持たない不遇なレンズです・・・)に属するレンズでした。鉄道写真を主に撮影していた当時、連れ立って撮影に出掛ける友人のレンズの望遠端が250mmだったので、子供ながらに、いつも劣等感のようなものにさいなまれていたのを記憶していますが、とにかく自分にとっての望遠レンズは長い間150mmだったのです。

 そして、写真部に在籍した高校時代、その描写力の洗礼を受けたのが大口径の中望遠単焦点レンズでした。以来、単焦点レンズにのめり込んだ自分ですから、この手のレンズには目がありません。まして、これまで数本試したオリンパスのマイクロフォーサーズ用レンズの、確かな性能を実感していた自分にとっては、試さない訳にはいかないのです。格別な思い入れこそないのですが、幼少期から望遠レンズとして馴染んでいた150mmの画角での単焦点。鉄道やポートレートといった被写体との縁は薄くなった昨今ですが、自ずと期待で胸が躍ります。

 解放f1.8という、焦点距離からすれば非常に明るいレンズとなり、マイクロフォーサーズ用の単焦点レンズとしては少し大柄に感じるかもしれません。PENシリーズやパナソニックのGXといった小型のボディーよりは、グリップの大きなE-M1系やパナソニックGH系やG9がバランスが良いようです。金属製の質感のよい鏡筒と、大きな口径を持った前玉を見ると、いかにも「写る」レンズの風格を漂わせます。そしてその雰囲気に違わず、非常に質の高い映像を提供してくれます。合焦面のシャープさはもとより、それを引き立てる前後のボケは非常に癖がなく、ヌケの良いクリアな画像は良い意味での緊張感を与えてくれます。画面周辺までスキのない描写は、オリンパスというメーカーに対し、個人的に感じている「生真面目さ」を体現してるかのようです。専用の大型金属フードの質感も高く、割高感はありますが一緒に手に入れておきたいところです。鏡筒もブラックとシルバー、二色が用意される贅沢。ボディーとのマッチングで、是非お好みをチョイスしてみてください。

 

 

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非常に精緻な描写を見せる合焦部と大きなボケが対照的な「大口径中望遠レンズ」の特徴が良く表れた一枚。滲んだり、溶けたりといった情緒的なボケにならないのが、本レンズ最大の特徴でしょうか。本当に「真面目」な一本です。クリアで色ノリがよく、とても現代的な写りに好感がもてます。

 

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しっかりとしたボケ像を作ってくれるので、こういった被写体を写すと素性の良さが感じられます。「味」などと曖昧な表現を受け付けない、これが「ボケ」の真のあり方なのだと、設計者の論文を読まされているような気分になります。

 

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解放から相当にシャープなレンズですが、被写界深度を稼ぐ為少しだけ絞ります。ピント面は非常に線が細く、素材の違う金属それぞれの質感を非常に上手く描き分けてくれます。中望遠レンズはポートレートレンズの代表とされていますが、適度に緩和されたパースがこんな被写体にも非常にマッチします。

 

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圧縮された遠近感と特筆するべき素直なボケ。画角故に万能選手とはいきませんが、ズーム一本で間に合わせることが多い望遠撮影において、存在感の非常に大きいレンズです。料理人は種類の違う何本もの包丁を使い分けると言いますが、特定の表現の為に拘りの「一本」用意する、そんな撮影者になりたいものです。

 

M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO

 「サンニッパ」という響きに、ある種の郷愁を覚えてしまう昭和生まれの私。焦点距離300mmの画角は望遠レンズの代表格であり、解放f値2.8はASA感度(あえてISOではなく)を自在に操れなかったフイルム時代には何物にも代えがたく、100mmを超えるレンズ口径がもたらす圧倒的存在感は写真少年達の憧れでした。また、鉄道・航空・ポートレート・スポーツ・野鳥など、様々な分野のプロカメラマン達が必ずといって所有していたのが「サンニッパ」であり、メーカー純正で30万円を超える高額なレンズでもあったため、その存在とともに、所有者にも羨望の眼差しが向けられました。

 オリンパスが放つ本ズームレンズのテレ端は、焦点距離に依存するボケの大きさを除けば、まさに「サンニッパ」。しかも、マイクロフォーサーズが採用する小型センサーの恩恵を最大限に生かし、最短撮影距離70cm・フィルター径72mm・重量880g(三脚座含む)と、フルサイズ対応の「サンニッパ」と比較し、超小型・超軽量と言って差し支えないスペックを誇ります。加えてズームレンズであることによる汎用性の拡大、全域に及ぶ恐ろしいまでの解像感を誇る描写性能、防塵防滴機構や、小型・軽量な本体+ボディー内手振れ補正による撮影フィールドの拡大と、レンズネームに「PRO」を冠するのは伊達ではありません。基本的にレンズはカメラのアクセサリーと考えらますが、本レンズは、レンズを使うためにボディーを選んでもいいと考えるレベルです。

 本レンズ購入の直接的動機となったのは、依頼されたミュージカルの撮影なのですが、今ではすっかり主要機材の仲間入りです。暗がりでの解放値f2.8は、被写体ブレを抑え込むためいたずらにISOを上げずに済み、AF合焦の歩留まりも上げてくれます。加えてズームレンズとは到底考えられない解像感・質感描写は、被写体となった演者からも非常に好評を得られました。加えて、3時間に及ぶミュージカル全編を機動性を上げるため手持ち撮影で臨んだのですが、疲労感も少なく翌日僅かに腕にだるさを覚える程度で済みました。当初フルサイズ一眼を持ち込んでの撮影も考えましたが、当然今後も本レンズがメインウエポンの座を譲ることはないでしょう。

 フルサイズ換算で80-300mmと、非常に使用頻度の高い画角をf2.8という明るさで実現した本レンズは、ボケ味だけはさらなる大口径の単焦点に譲りますが、画質劣化のほとんど感じられない1.4倍の純正テレコンを含めれば、420mmという超望遠域まで撮影領域を広げられますので、マイクロフォーサーズ用望遠レンズでの真のマストバイアイテムと言えるのではないでしょうか。

  

 

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全域でズームレンズであることを忘れさせる、圧倒的な解像感を誇る本レンズは、ボケ味はやや「固め」な印象。五月蠅く感じるギリギリ手前のボケでしょうか。それにしてもヌケがよく、コントラストの高い映像です。10群16枚のガラス、本当に入っているのでしょうか?

 

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周辺まで乱れの少ない良質なボケ像。9枚の円形絞りを採用し、ボケが大きくなる望遠レンズの長所をうまく引き出します。口径食の影響も軽微で、きれいな「丸ボケ」が堪能できます。

 

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風景を切り取ることができる、望遠レンズならではの表現。都市景観(と言っても田舎ですが・・・)をスナップするのに、このズーム域はとても重宝します。遠景であれば全域がシャープに結像するのも150mmならでは。小型センサーの恩恵を感じる一枚です。

 

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最短撮影距離はズーム全域で、驚きの70センチ。それにしてもこの解像感。絞りは解放に近いところですが、葉脈の一本一本が間近に存在するようです。落ちたてなのか、まだ瑞々しいその質感も見事に描写。オリンパスといえばマクロ撮影に強いイメージがフイルム時代からありますが、その血統を確かに感じます。

 

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夕暮れの遠景。ボディー内の強力な手振れ補正・軽量なレンズのおかげで、日没後・テレ端の撮影にもかかわらず、手振れの心配をしなくて済みます。街灯上のカラス(?)の足まで完全に解像しています。強烈な光源による悪影響もなく、コーティングも非常に優秀だと感じます。

 

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非常に凝った作りの大型レンズフードが付属しますので、逆光気味の条件でも安心して撮影に臨めます。クリア&シャープな描写は少しも揺るぎません。そのギミック故か、ネット上には故障報告も散見されるフードですが、一度使うと他社も採用して欲しいと感じる絶妙な仕掛けです。

 

M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6

 カメラをこの手に持って、すでに30年という時間を過ごしてきましたが、これまでOLYMPUSのレンズで写真を撮ったことはほとんどありませんでした。高校・大学と、もっとも写真に明け暮れた時間にそのユーザーが周りに少なかった事もありますが、小振りなボディーデザインが、無骨なNikonに慣れ親しんだ私の手には少々なじまなかったというのが本当の理由だったのかもしれません。

 さて、現在のOLYMPUSといえば、往年の銘機「PEN」シリーズをデジタルカメラとして復活させたマイクロフォーサーズ陣営の一角として、人気を二分するPanasonicとともに多くのレンズをラインナップしています。面白いことに標準系ズームレンズである14-45(42)mm以外は、双方に同一スペックのレンズが存在しないので、その事がレンズを選ぶ我々にとっては楽しみでもあり、また悩みの種ともなっています。

 実際、マイクロフォーサーズシステムの超広角レンズを購入する際は、Panasonic製の7-14mmとどちらにするか、かなりの時間悩みました。結果として2ミリ短い焦点距離とズームによってf値の可変しない点を重視して7-14mmを購入したのですが、今回試用した9-18mmの描写は、スペック上の小さな差には決して現れない確固たる個性を備えており、再び購入候補のレンズに上がってしまいました。

 広角側の焦点距離2ミリ分の譲歩とf値を可変方式としたことにより、本レンズは非常に小型・軽量となり、格納時の沈胴機構を作動させると標準ズームである14-42とほとんど変わらない外観になります。AF作動も非常に静穏かつ機敏で、レンズ前面に保護フィルターが装着可能な点からも広角スナップシューターとして存分に機動力を発揮してくれるでしょう。結像性能もズームレンズであることを忘れさせるほどで、画像エンジンとの連携でシステムとして描写力を高められるデジタル一眼の強みを感じることができます。絞りによる画質の変化も緩やかで、解放での素直な描写が、絞り込んでもあまり堅くならずに維持されます。極端なシャープネスの誇張が無く、質感の描写にも優れた本レンズは、解像度重視で画面に緊張感が走る7-14mmと比較して、広角域でのポートレートなどにも好適かもしれません。単純な比較はできませんが、あえて7-14mmを新世代のズミクロンとたとえるなら、9-18mmの写りは往年のズマロンを思い起こさせる、そんな所があるような気がします。

 あまりに小型で取り回しが簡便なために超広角レンズであることを忘れると、うっかり自身の指を写し込んでしまいます。別売りで定価5,000円と高価ではありますが、レンズフードは必携アイテムとなりそうです。

 

 

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日常の風景を一瞬で異世界へと変えてくれる超広角レンズ。その強烈な遠近感描写と肉眼を遥かに超えた広い画角は、写真ならではの独特の表現を与えてくれます。使い慣れないと癖ばかりが目立ってしまいますが、水平・垂直に気を付ければ案外自然な描写もしてくれるものです。

 

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広い画角を利用すれば、頭上を広く覆う空・雲・太陽を美しく捉えてくれます。何気なく見上げた空ですが、同じ風景は二度と撮影することはできないのですから、写真って本当に不思議ですね。ポケットにも入ってしまう超小型といって言いレンズですから、いつでも持ち歩いてそんな二度とない瞬間の記録に備えられます。

 

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9-18㎜という焦点距離は35ミリサイズでの画角に換算すると18-36㎜相当となります。数字の上では僅かな差ですが、画角は強烈に変化します。比較的自然な描写をする18㎜側から非現実的な描写をする9㎜。この変化を標準ズームレンズ同等の大きさのレンズで実現していることに、このレンズの本当の存在意義が隠れています。

 

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焦点距離が非常に短いレンズですから、屋外では簡単に深い被写界深度を利用したパンフォーカス撮影が可能です。パナソニックの7-14はカミソリでそぎ落としたような鋭利なピント面を見せますが、本レンズはどちらかといえば合焦部を彫刻刀で削りだして行くようなイメージでしょうか。許されるならばどちらも所有しイメージに合わせて使い分けをしたいものです。

 

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コーティングも新しいレンズらしく優秀です。逆光でも濁りの無い発色。ゴースト・フレアの類も通常の撮影では問題にはなりません。歪曲収差もデジタル補正の恩恵で気になるケースは稀でしょう。これほどの超広角ズームレンズを手のひらサイズで入手できるのですから良い時代になったものです。

 

プロフィール

フォトアルバム

世界的に有名な写真家「ロバート・キャパ」の著書「ちょっとピンボケ」にあやかり、ちょっとどころか随分ピント外れな人生を送る不惑の田舎人「えるまりぃと」が綴る雑記帳。中の人は大学まで行って学んだ「銀塩写真」が風前の灯になりつつある現在、それでも学んだことを生かしつつカメラ屋勤務中。

The PLAN of plant

  • #12
     文化や人、またその生き様などが一つ所にしっかりと定着する様を表す「根を下ろす」という言葉があるように、彼らのほとんどは、一度根を張った場所から自らの力で移動することがないことを我々は知っています。      動物の様により良い環境を求めて移動したり、外敵を大声で威嚇したり、様々な災害から走って逃げたりすることももちろんありません。我々の勝手な視点で考えると、それは生命の基本原則である「保身」や「種の存続」にとってずいぶんと不利な立場に置かれているかのように思えます。しかし彼らは黙って弱い立場に置かれているだけなのでしょうか?それならばなぜ、簡単に滅んでしまわないのでしょうか?  お恥ずかしい話ですが、私はここに紹介する彼らの「名前」をほとんど知りませんし、興味すらないというのが本音なのです。ところが、彼らの佇まいから「可憐さ」「逞しさ」「儚さ」「不気味さ」「美しさ」「狡猾さ」そして時には「美味しそう」などといった様々な感情を受け取ったとき、レンズを向けずにはいられないのです。     思い返しても植物を撮影しようなどと、意気込んでカメラを持ち出した事はほとんどないはずの私ですが、手元には、いつしか膨大な数の彼らの記録が残されています。ひょっとしたら、彼らの姿を記録する行為が、突き詰めれば彼らに対して何らかの感情を抱いてしまう事そのものが、最初から彼らの「計画」だったのかもしれません。                                 幸いここに、私が記録した彼らの「計画」の一端を展示させていただく機会を得ました。しばし足を留めてくださいましたら、今度会ったとき彼らに自慢の一つもしてやろう・・・そんなふうにも思うのです。           2019.11.1

The PLAN of plant 2nd Chapter

  • #024
     名も知らぬ彼らの「計画」を始めて展示させていただいてから、丁度一年が経ちました。この一年は私だけではなく、とても沢山の方が、それぞれの「計画」の変更を余儀なくされた、もしくは断念せざるを得ない、そんな厳しい選択を迫られた一年であったかと想像します。しかし、そんな中でさえ目にする彼らの「計画」は、やはり美しく、力強く、健気で、不変的でした。そして不思議とその立ち居振る舞いに触れる度に、記録者として再びカメラを握る力が湧いてくるのです。  今回の展示も、過去撮りためた記録と、この一年新たに追加した記録とを合わせて12点を選び出しました。彼らにすれば、何を生意気な・・・と鼻(あるかどうかは存じません)で笑われてしまうかもしれませんが、その「計画」に触れ、何かを感じて持ち帰って頂ければ、記録者としてこの上ない喜びとなりましょう。  幸いなことに、こうして再び彼らの記録を展示する機会をいただきました。マスク姿だったにもかかわらず、変わらず私を迎えてくれた彼らと、素晴らしい展示場所を提供して下さった東和銀行様、なによりしばし足を留めて下さった皆様方に心より感謝を申し上げたいと思います。 2020.11.2   

The PLAN of plant 2.5th Chapter

  • #027
     植物たちの姿を彼らの「計画」として記録してきた私の作品展も、驚くことに3回目を迎える事ができました。高校時代初めて黒白写真に触れ、使用するフイルムや印画紙、薬品の種類や温度管理、そして様々な技法によってその仕上がりをコントロールできる黒白写真の面白さに、すっかり憑りつかれてしまいました。現在、フイルムからデジタルへと写真を取り巻く環境が大きく変貌し、必要とされる知識や機材も随分と変化をしましたが、これまでの展示でモノクロームの作品を何の意識もなく選んでいたのは、私自身の黒白写真への情熱に、少しの変化も無かったからではないかと思っています。  しかし、季節の移ろいに伴って変化する葉の緑、宝石箱のように様々な色彩を持った花弁、燃え上がるような紅葉の朱等々、彼らが見せる色とりどりの姿もまた、その「計画」を記録する上で決して無視できない事柄なのです。展示にあたり2.5章という半端な副題を付けたのは、これまでの黒白写真から一変して、カラー写真を展示する事への彼らに対するちょっとした言い訳なのかもしれません。  「今日あっても明日は炉に投げ込まれる野の草さえ、神はこのように装ってくださるのなら、あなたがたには、もっと良くしてくださらないでしょうか。」これはキリスト教の聖書の有名な一節です。とても有名な聖句ですので、聖書を読んだ事の無い方でも、どこかで目にしたことがあるかも知れません。美しく装った彼らの「計画」に、しばし目を留めていただけたなら、これに勝る喜びはありません ※聖書の箇所:マタイの福音書 6章30節【新改訳2017】 2021年11月2日

hana*chrome

  • #012
     「モノクロ映画」・「モノクロテレビ」といった言葉でおなじみの「モノクロ」は、元々は「モノクローム」という言葉の省略形です。単一のという意味の「モノ」と、色彩と言う意味の「クロモス」からなるギリシャ語が語源で、美術・芸術の世界では、青一色やセピア一色など一つの色で表現された作品の事を指して使われますが、「モノクロ」=「白黒」とイメージする事が多いかと思います。日本語で「黒」は「クロ」と発音しますから、事実を知る以前の私などは「モノ黒」だと勘違いをしていたほどです。  さて、私たちは植物の名前を聞いた時、その植物のどの部分を思い浮かべるでしょうか。「欅(けやき)」や「松」の様な樹木の場合は、立派な幹や特徴的な葉の姿を、また「りんご」や「トマト」とくれば、美味しくいただく実の部分を想像することが多いかと思います。では同じように「バラ」や「桜」、「チューリップ」などの名前を耳にした時はどうでしょうか。おそらくほとんどの方がその「花」の姿を思い起こすことと思います。 「花」は植物にとって、種を繋ぎ増やすためにその形、大きさ、色などを大きく変化させる、彼らにとっての特別な瞬間なのですから、「花」がその種を象徴する姿として記憶に留められるのは、とても自然な事なのでしょう。そして、私たちが嬉しさや喜びを伝える時や、人生の節目の象徴、時にはお別れの標として「花」に想いを寄せ、その姿に魅了される事は、綿密に計画された彼らの「PLAN(計画)」なのだと言えるのかもしれません。  3年間に渡り「The PLAN of Plant」として、植物の様々な計画を展示して参りましたが、今年は「hana*chrome」と題して「花」にスポットを当て、その記録を展示させていただきました。もしかしたら「花」の記録にはそぐわない、形と光の濃淡だけで表現された「モノクローム」の世界。ご覧になる皆様それぞれの想い出の色「hana*chrome」をつけてお楽しみいただけたのなら、記録者にとってこの上ない喜びとなりましょう。                              2022.11.1

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