Zeiss Planar 50mm f1.4ZF
オスカー・バルナックによって完成され、その後世界を代表する35ミリサイズカメラとなった「ライカ」には焦点距離50ミリのレンズが取り付けられていました。
以来、遠近感の極度な誇張や圧縮がないこの焦点距離は、35ミリカメラにおけるスタンダードレンズとして定着しました。写真に興味をもった方なら、どこかで必ず耳にするエピソードでしょう。今日の様なズームレンズが一般化するまでの長い間、カメラといえば50ミリを付けて買うのが一種当たり前で、実際、私が幼少期に借り出しては注意された父親のカメラにも、ニッコールの50ミリがり付けられていたのを記憶しています。それ故、50ミリレンズの設計、製造には多くのメーカーが心血を注ぎ、結果として「銘レンズ」とよばれるものが多く存在する結果となっています。ライカのエルマーやズミクロンにはそれぞれ熱狂的な信者とも言えるユーザーがいますし、国産のニッコールやロッコールなどを愛用するカメラマンも多いことでしょう。マニュアルフォーカス時代のキヤノンには、明るさ・レンズ構成別に5種類もの50ミリが存在していた時代もあるほどですから、標準というより、むしろ特殊レンズといった名称が似つかわしいほどです。
そして、一眼レフカメラ用標準レンズの帝王として、やはり多くのフォトグラファーが愛用する50ミリにZeissのプラナーが掲げられます。開放付近では十分にシャープな合焦部にベールのようにまとわりつく柔らかなフレアがとても神秘的な印象をもたらし、f2.8あたりからは、ほぼ画面全域にわたり最高の解像感が得られます。また、実像感を残しつつ、なだらかに消え行く非合焦部の描写は、このレンズでしか味わえない至高の立体感を演出します。
Y/C時代のMMレンズでは、開放付近のボケにややエッジが強調されてしまうという欠点がありましたが新生Zeissでは枚数を増やした絞り羽根との相乗効果で、「少しだけ絞った」プラナーの一番美味しいトコロを存分に堪能させてくれました。目隠しをしてでも操作が出来るほど、この手に馴染んだニコンのボディーに取り付けられたこのレンズは、文字通り、これから私の新しいスタンダードとなるでしょう。
結婚式リハーサル前の会堂です。静まり返りどことなく漂う緊張感のようなものが伝わってきます。室内撮影による色温度の高い色調がそれを助長します。プラナーは解放付近の大きなボケやソフトなイメージが持ち味ですが、絞り込んだ時のスッキリとした写りも非常に好印象です。
開放では、やや甘くなる描写と大きなボケがプラナーの真骨頂。基本描写はCONTAX時代のPlanarのそれと変わりありませんが、絞り羽根の枚数が増えている為、少し絞った際の背景の形状がより柔らかい印象を受けます。
光源などは、若干エッジの立ったボケ像となるのも50mmの特徴。時に煩わしさも伴いますが、距離によってその表情を変えるので、遠近感の表現に一役買う場面もあったりします。
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